ヤーレンズ・出井隼之介さんが物事の良し悪しを綴る連載『可否伝』。出井さんセレクトの「今月のコーヒー」情報とともに、心が揺れた“良し悪し”を語ります。

6月の可否
トルシエ監督は今はワイナリーを経営しており、日本向け3本セット「フラット3」が発売中。どうも、ヤーレンズ出井です。
ラジオ番組を沢山やっている(現在4本)ので、近況も話すが過去の話をすることもある。
僕は元々大阪で芸人をやっていたのだが、先日たまたまその頃の話になった。池の底に大きい石が落ちて沈殿していた土が舞い上がるかのように、当時のことが次々と思い出された。
大阪で過ごした19〜27歳の日々。上京するまでの8年間のこと。喋りながらいわゆるエモいという感情になっていたのだろうか、記憶の断片がとめどなく口をついて出てきた。頃合いを見て止めたが、あまりに絶え間なく注ぐので永遠と呼ぼうかと思った。
However あの頃を思い返しても良いことなんて特に無かった。劇場に入るためのオーディションに落ち続け、それ以外はインディーズライブと呼ばれる自主ライブに月に数本出ているだけだった。
本当にお金も売れる気配も何もかもがほとほと無くて、時間と体力、つまりは若さという貴重な資源だけが膨大にあった。有り余っていた。
当時やっていたネタなんて一行も思い出せない。バイトの日々と、ルームシェアのみんなで集まって朝までゲームをして遊んだことばかり思い出される。
ラジオでひとしきり喋った帰りのタクシーで少し寂しくなった。
「もう仲間と一晩中桃鉄をすることはないのか」
もう来年40になろうかという人間は、仲間と一晩中桃鉄をやらない。やろうと思えばできるが、やらない。もうここまで来たらそんなことはできない。次の日が怖い。
ということはその桃鉄に付随してくる鍋や、ピザや、途中で全員一斉に腹が減ってみんなでスーパーかコンビニに行くことや、セーブして一旦スマブラをすることも残念ながらもうないのだ。
あの頃とは何もかもが違う。時間がない。休みの日には1日の端から端まで予定を詰め込み、日々の復讐のような時間の使い方をする。
そんな時にふと、朝までゲームをして昼まで寝ていることの気持ち良さを思う。退廃的な、ある種自堕落な時間の使い方をした後のあの感覚と、完璧に休日然とした休日を過ごした爽快感はどちらが上なんだろうか。仮に前者が上であってももう手には入らないのだが。
急にあの時間の特別さを思う。みんなで協力して、肩を組んで、有り余っている若さと時間を浪費した後におとずれるあの感覚。PUNPEEが「夜を使いはたして」と表現していたがまさにそんな。そこには酒も(飲んでいるやつは飲んでいたにせよ)セックスも音楽も、なんならお笑いすらも無かった。
別にかけがえが無いものだと、その時は思ってもいなかった。しかし、もう二度とやってこない。
若いうちにやれることは何かと聞かれても分からないが、気の合う仲間と朝まで遊ぶことに代表されるような、タイパの悪いことをとことんやることなのかもしれない。無駄な時間の価値はその最中にはまるで分からない。
だから、若手はネタなんて書かずにみんなで桃鉄するべきだ。
~6月の可否~
可→タイパなど気にせず若さを消費すること
否→若い頃から計画的かつ熱心に努力すること
今月のコーヒー【Bespoke Coffee Roasters(埼玉)】
Bespoke Coffee Roasters

ハンドドリップの世界王者にも輝いた経歴のある畠山大輝さんのお店。


来店した動画がYouTubeに上がっていますのでぜひ!
PROFILE

ヤーレンズ・出井隼之介
ケイダッシュステージ所属
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・note:https://note.com/yarlens_dei/
~ヤーレンズ情報~
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文:ヤーレンズ・出井隼之介
編集:堀越 愛
写真&サムネイル:ヘンミモリ

