地方在住でも「お笑い」に触れる機会が増えた2020年 ~『芸人キングダム』パワーの分析~

笑いの仕事をつくるオンラインサロン「WLUCK」では、様々な“笑いにまつわる”プロジェクトが進行しています。その中のひとつが『芸人キングダム』。これは“芸人界の勢力図を作る”というプロジェクトで、メディア出演のみならず、ライブ活動や芸人の生命線ともなりつつあるSNS活動まで調査範囲を広げ、約5か月にわたり徹底リサーチ。シリーズ第1回 では勢力図そのものの解説、第2回 では第7世代に着目し分析をしました。そして今回は、調査基準となった「メディア」「SNS」「ライブ」に注目します。

第1回:芸人キングダム2020 ~大きく変わりつつある“芸人勢力図”〜
第2回:総合パワーランキングトップ12の分析「第7世代はどこまで食い込んでる?」

芸人界の勢力図「芸人キングダム」2020年版 ※フル画像はこちら

『芸人キングダム』を作成する大前提として設定したのが、「芸人が活躍し金銭を稼ぐことができる3大要素」。それが、「メディア」「SNS」「ライブ」です。

総合パワーランキング ※フル画像はこちら

「メディア」「SNS」「ライブ」3要素の数値をパワーと呼びます。MAXは、それぞれ100。総合パワー(合計)のMAXは300となります。

メディア「なぜ千鳥の数値は100じゃない?」

最初に「メディア」について分析します。「メディア」は、MCクラスのレギュラー番組を持っている芸人がMAXの100を記録しやすいという傾向があります。具体的には、メンバーがMCをする番組が8本以上あればMAXに到達します。

現在、100を超えているのはサンドウィッチマン、バナナマン、オードリー、極楽とんぼ、所ジョージ、有吉弘行の6組のみ。レギュラーを多く持つ人の中でもこの条件をクリアするのは厳しいことがわかります。

そして、意外と100に到達しなかったのが「千鳥」。名前に引っ掛けるわけではないですが、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの2人の数値は72でした。なぜこうなったかというと、「東京の地上波で放送されている番組に限る」と設定したことに理由がありました。(今回は地方局の番組のゲスト出演本数について、正確に調査するすべがなかったのでこのようにさせていただきました)その結果、千鳥がレギュラー出演している東京の番組(2020年6月時点)は下記4番組のみ。

「そろそろ にちようチャップリン(テレビ東京)」
「テレビ千鳥(テレビ朝日)」
「華丸大吉&千鳥のテッパンいただきます!(フジテレビ)」
「クイズ!THE違和感(TBSテレビ)」

そしてその他のレギュラー番組は下記6番組。

「いろはに千鳥(テレビ埼玉)」
「チャンスの時間(AbemaTV)」
「街頭TV 出没!ひな壇団(中国放送)」
「相席食堂(ABC)」
「パラ×ドキッ!(NHKBS1)」
「千鳥のロコスタ(GYAO!)」

なんと千鳥は「東京地上波以外のレギュラー番組のほうが多い」のです!これは集計終了後に始まった「千鳥のクセがスゴいネタGP(フジテレビ)」を考慮しても変わりません。

自分たちが生まれ育った中国地方、育ててくれた関西地方、上京後に支えてくれたテレビ埼玉にそれぞれ番組を持っているというのは2人らしいともいえるのではないでしょうか?

そして現在、地方の3番組 (「いろはに千鳥」「街頭TV 出没!ひな壇団」「相席食堂」)はDVDやTVerで観ることができます。もし来年『芸人キングダム2021』を作成するのであれば、TVerで観られる地方の番組も考慮すべきかな?と考えさせられました。

SNS「登録者100万人越えYouTube検証~YouTubeは本当に若者向けなのか?~」

次に、「SNS」の分析です。ここでは、特にYouTubeに着目します。「金銭を稼ぐ」という視点で見るとYouTubeが最も効果的だからです。『芸人キングダム』において、「SNS」でMAXの100を出すためにはチャンネル登録者数が100万人を超える必要があります。現在、芸人YouTubeで登録者数100万人を超えているチャンネルは下記7つ。

「中田敦彦のYouTube大学」(オリエンタルラジオ・中田敦彦)
「エガちゃんねる」(江頭2:50)
「カジサック KAJISAC」(キングコング・梶原雄太)
「貴ちゃんねるず」(とんねるず・石橋貴明)
「宮迫ですッ!【宮迫博之】」(雨上がり決死隊・宮迫博之)
「しもふりチューブ」(霜降り明星)
「ヒロシちゃんねる」(ヒロシ)

コロナ禍で相当数の芸人がYouTubeを始めましたが、それでもチャンネル登録者数100万人を超えているのはこれだけしかいないのです。

この7組の中で、霜降り明星を除く6組の地上波レギュラーは石橋貴明の「石橋、薪を焚べる(フジテレビ)」の1本のみ(2020年6月時点)。すなわち、ほぼ専業でYouTubeをやっている人ばかりなのです。また年齢も高く、20代の霜降り明星を除くと次に若いのが中田敦彦の38歳、最年長の石橋貴明に至っては来年還暦を迎えます(2020年12月時点)。

そこで浮かぶのが「YouTubeは若い人が観ているというのは勝手な思い込みではないか?」という疑問です。実際、『高校生・中学生が選んだ「好きなYouTuber」人気ランキング』を見ると、30歳を超えているのはHIKAKIN(31)の1人だけでした(2020年12月時点)。人気のYouTuberは20代の若い世代が多いのに、芸人になると第3~5世代 (30~50代)ばかりが金の盾をもらっている(チャンネル登録者数100万人を超えると、公式より「金の盾」が贈られる)。つまり、テレビやライブシーンで若い世代に人気の芸人=YouTubeで人気、というわけではないということ。YouTubeで人気になる条件は、「若い世代に好かれること」ではないと考えられます。

先ほど挙げた7組を『日経エンタテインメント!』のタレントパワーランキング で見ると、霜降り明星は「注目ゾーン」、石橋貴明・宮迫博之・江頭2:50は「大御所&安定ゾーン」、オリエンタルラジオ・キングコング・ヒロシはそもそも掲載されていませんでした。 そしてこの表を見て気付いたのですが、霜降り明星と石橋貴明・宮迫博之・江頭2:50は「潜在的なファンの数」が同じなのかもしれません。タレントパワーランキングは認知度(顔も名前も知っているか)と関心度(知っている人の中で、実際にその人に関心があるか)のデータが載っています。「認知度と関心度をかけた数値」=「日本で何%の人に関心を持たれているか」であると仮定し、実際にかけ合わせてみます。

霜降り明星 59%×70%=41%
石橋貴明 81%×49%=40%
宮迫博之(雨上がり決死隊) 76%×52%=40%
江頭2:50 81%×51%=41%

なんと全員「国民の4割から関心を持たれている」という結果となりました。かけ合わせてこれ以上の値を出す人は基本的にテレビで引っ張りだこなので、本格的にYouTubeをやっている人は少ないのです。すなわち「潜在的なファンの数」と「本人のやる気」の2つが人気YouTuberとなれる大きな要素なのではないでしょうか?(もちろん「企画力」も必要でしょうが、そこまで行くと作家の能力になるので除外しました)

ライブ「全国ツアー・ライブビューイングの増加」

最後にライブです。これは、1万人動員でMAXの100になるように設定しています。この計算方法だと8組が100となりました。

「ライブ」でパワー100を超える芸人
サンドイッチマン
オードリー
千鳥
さまぁ~ず
バカリズム
NON STYLE
東京03
チュートリアル

しかし今回の調査で判明したのは、パワーが100を超えていないグループでも東京、大阪以外で単独ライブを開催しているグループが多いということです。バナナマンのように「あえて都内だけ」というグループもいますが、今回の調査で単独ライブを開催していた85組のうち、約半数が東京・大阪以外でも開催していました。また、ライブビューイングを実施しているグループも6組いました。最近ではM-1グランプリの準決勝のライブビューイングがほとんどの会場で売り切れ、結局当日に配信も実施するということが発表されたというのも記憶に新しいところです。

どんな分野でも広げていくためにはまず「参加人口を増やす」必要がありますが、このように、ネタを大切にする芸人が「より多くの人に届けたい」と大都市以外でもライブをするというのはお笑いの「裾野を広げる」ことへの貢献となります。今年はさすがにコロナの影響で全国ツアーも減りましたが、今後も「お笑いに触れる人口」を増やしていってほしいものです。

まとめ

さて、上記3つのパワーについてまとめていて思いましたが、2020年は「地方民がお笑いに触れるきっかけが大幅に増えた1年」なのではないでしょうか?自分語りになってしまって申し訳ないのですが、私は福岡県北九州市の出身です。高校生だった2000年代初頭、お笑いに触れるためにはテレビ番組とレンタルビデオショップで借りるライブのビデオぐらいしかありませんでした。お笑いライブに行くためには、大阪や東京に「遠征」に行かなければいけませんでした。当時高校生だったのでそんなお金ももちろんなく、「爆笑オンエアバトル(NHK総合テレビ)」の恩恵に預かっていました。

しかし現在、東京や地方の番組も「TVer」などの動画配信サービスを使えば合法で観られるようになりました。さらにYouTubeでも、いろんなネタやコンテンツを観られるようになりました。 単独ライブで直接観ることもできるようになっています。今自分が高校生だったら、大学受験に失敗していたんじゃないか?と思うほどの充実ぶりです。

2020年はコロナ禍によって実際の距離は離れてしまいました。しかしそれによりネット関係の動きは加速し、結果として地方民とお笑い芸人の距離は近づいたのではないでしょうか?

2021年も全国の皆さんがますますお笑いに触れられるように祈りつつ、この記事を〆させていただきます。

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