Aマッソ加納さんの新感覚エッセイ集 『イルカも泳ぐわい。』

『イルカも泳ぐわい。』(2020/筑摩書房)は、Aマッソ・加納愛子さんによるエッセイ集。Webちくまの人気連載『何言うてんねん』に短編小説など書下ろしを加えた、全40篇が収録されています。Aマッソは『女芸人No.1決定戦 THE W 2020』で決勝進出した実力派コンビ。独創的なネタの世界観に魅了される人が急増しています。Aマッソの頭脳を担う加納さんのエッセイとは、いったいどんな内容なのでしょうか。関西在住の大学生・藤田うなさんが紹介します。

『イルカも泳ぐわい。』はAマッソ・加納愛子さんによる初のエッセイ集。Webちくまの人気連載「何言うてんねん 」に書き下ろしを加えた、全40篇が収録されている。

加納さんはAマッソのネタ作りを担当しており、独特の着眼点やフレーズが光るネタで人気を博している。本作においてもそのセンスは遺憾なく発揮されており、キレキレの言葉を追うだけでも十分に楽しめる内容になっている。また、学生時代の話や好きなことについても語られており、加納さんの一貫した芯の部分が感じられるファン必見の一冊である。

いつの間にか架空の話に様変わりする新感覚エッセイ

加納さんのエッセイでは、このようなことがよく起こる。読者はいつの間にかフィクションの世界に誘われ、その入口は加納さんの巧妙な業によって見事に隠されている。それは、エッセイではなく、まるで日常のパートを導入とした“コントの脚本”のようだ。身の回りの話から架空のストーリーが始まり、終わりまでしっかりと上映される。知らぬ間に観客となった読者は「何読んでたんだっけ」という不思議な気持ちになるのだ。

上記のような感想をメモしながら本作を読み進めていると、次の文章に出会った。

エッセイだと思って手に取ると、きっと誰もが騙されるだろう。エッセイとは日常で起こったことや感じたこと、見聞などを綴るものだが、ここではそのどれもが入り口に過ぎない。そこから想像もつかないファンタジーへと突き落とされるのだ。

―『イルカも泳ぐわい。』「何言うてんねん」 (P.110)より

これは、岸本佐知子さんのエッセイ集『ねにもつタイプ』『なんらかの事情』(いずれも筑摩書房)に対する加納さんの言葉である。加納さんのエッセイに対して筆者が抱いた思いは、加納さんが岸本佐知子さんに対して抱いたものに近しかった。お二方とも“エッセイの中で日常から非日常に変わる”という共通点がある。それぞれの作品はその方らしさを含み、読者に異なる体験をさせてくれる。岸本さんのエッセイが好きな方はきっと本作も楽しめる内容となっているはずであり、逆もまた真なり。

「何言うてんねん」こそ加納さんの狙い

題名にもなっている『イルカも泳ぐわい。』は、収録されているエッセイのうちの一つ。どのような会話であれば「イルカも泳ぐわい」が出てくるのか、文脈を予想することのできない言葉だ。「どういうことだろう?」と思わず手に取りたくなる気持ちは作り手の想定内だろう。書籍の中では、一つ目のエッセイとして配置されている。内容はタイトルの唐突さとは裏腹に、加納さんのネタ作りやお笑いに対する考え方が垣間見えるものとなっており、「何言うてんねん」という一言で突っぱねるにはもったいない。『イルカも泳ぐわい。』にも理由があるのだ。ただ、本心を包む「何言うてんねん」というベールは加納さんの照れ隠しとも受け取れる。読む際は一度ツッコんでクスッと笑った上で、こっそりと加納さんの脳内を見学させてもらうくらいの気持ちが丁度良いかもしれない。すべて紐解こうとするのは無粋である。

いろんな笑いがあるけれど、私は「何言うてんねん」が大好きだ。受け手が腹を抱えて笑いながら「何言うてんねん」というしかないものに出会ったとき、安い言葉だけど、人生って楽しいなぁと思う。

―『イルカも泳ぐわい。』「何言うてんねん」(P.111)より

加納さんの教養と活発さが伺える軽妙な筆致からは元気すらもらえる。コロナ禍でまだまだ自粛ムードが漂う中、『イルカも泳ぐわい。』を読んで加納さんの世界を体感してみては。

『イルカも泳ぐわい。』特設サイトはこちら

これは余談だが、冒頭の写真は筆者が撮影したものだ。Aマッソのネタに“手タレ”を題材にしたコントがあったことを思い出し、“手”込みの写真を使用するに至った。


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