太田光の中高時代と重ね合わせる。思春期の私のバイブル『カラス』について

『カラス』(1999/小学館)は、爆笑問題・太田光が自身の34年間を振り返る1冊。お笑いとは、芸術とは、そして自分自身とは?100時間の超ロングインタビューが炙り出す太田氏の過去に、救われた人も多数いるのではないでしょうか。現在は映画や漫画クリエイターとして活動する小池太郎さんが、自身のバイブルであるという『カラス』を紹介します。

太田光の『カラス』は、私の中高時代のバイブルです。

『カラス』で最も印象的かつ、16歳の私の肩を包んでくれたのは、太田光の中高時代のエピソード。

仲間の輪に入れなかった太田の登校の足取りはいつも重い。食事をしても味がせず、何を見ても感動しなくなったらしい。

しかし、彼は大学に入ってから、自分の殻を必死に破ろうとします。嫌われたって構わないから、自分を表現したい。奇声を発して喚く太田に、同級生は辟易します。そんな中、太田に声をかけたのが、のちの相方である、田中裕二。彼は初めて「素の自分」を受け入れる他者に出会うのです。

同じように自分を隠していた私は、本書のこのエピソードを読んでから、自分の殻を破ろうとしました。終礼で積極的に発言したり、部活にいくつも入ってみたり。するとどんどん私の学園生活は輝き始め……ませんでした。変なやつ扱い。いじめに近いこともされました。

結局、私は文化祭にも体育祭にも行かず、中高を終えたのです。

傷跡が増えるばかりの毎日を癒してくれたのは『カラス』でした。太田光の中高時代と自分を重ね合わせて、今成功している彼も、同じように苦しんでいたんだ、と考えることでやり過ごしていました。

テレビの奥で、共演者に辟易されながらも、構わず両手を振り回し、お得意の「暴発ギャグ」を連発する太田光。周囲との軋轢に傷つく私に、「オレもひとりだから心配すんな!」とエールを送ってくれているような、そんな気持ちになりました。

その後、大学に入学。中高と違い、群れずに生活できる毎日がとても楽しかったです。いろんな場所に行っては、自分を発信する日々に喜びを感じていました。

現在はデザイナーとして働きながら、映画と漫画をつくっています。そして私自身、太田光と同様「イケてない中高生へ旗を振る」という活動を、SNSや漫画・映画づくりを通じて行っています。

周りから「あいつだけ、汚くて黒いよな」と軽蔑されても、そこから飛び立てば、自分と同じように汚くて黒い人たちがいる。そして、その中では、美しい「黒」として、存在することができる。

自分の力で飛び立つその日は、きっと、いつかやってきます。

WLUCK CREATORS