放送作家を目指す女子高生の日記 ~『百喜利』アナザーストーリー~

2021年9月23日(木)、9月24日(金)、9月25日(土)の三夜連続で、新たな大喜利イベント『百喜利〜大喜利には正解がある〜』が開催されました。『百喜利』は、1つのお題に対し“正解”が出るまで回答し続ける一途な大喜利企画です。

本記事は、「笑いの仕事をつくるオンラインサロン WLUCK」のメンバーとして『百喜利』に携わった放送作家志望の女子高校生・佐々木愛花さんによる日記です。オンラインで行われた企画会議を通して学んだこと、感じ取ったことを、素直な気持ちで書き綴りました。会議に参加するメンバーのほとんどは社会人。そのため、会議は仕事がひと段落した夜に行われていました。愛花さんは普段の生活リズムとのズレに苦労したり、“大人”の難しい会話に必死で食らいついたりと、忘れがたい経験をした様子。作家を目指す地方在住の女子高生は、『百喜利』を通じてどんなことを思ったのでしょうか?

『百喜利』のアナザーストーリーとして、そして愛花さんが作家への一歩を踏み出した記録として、日記をお楽しみください。

《自己紹介》

はじめまして!

佐々木愛花と申します。
放送作家志望の女子高校生というかなり珍しいタイプの人間です。
今は高校3年生で、青森の「南部地方」という場所に住んでいます。

青森と言われて、皆さんはどんな地域を想像するでしょうか?
なにを言っているか分からないくらい訛りが酷くて、冬は雪がいっぱい降る地域、というイメージではないでしょうか。

……それは、青森の「津軽地方」の特徴です。私が住む南部地方は、訛りも降雪量も酷くありません。同級生は全員標準語ですし、話す内容も都市圏に住んでいる学生とほとんど変わらないと思います。

「降雪量は酷くない」と言っても、このくらいは普通に降ります

ただ、「都会と田舎の格差」は常に感じています。都市圏の学生に比べて、活発に課外活動をしている学生は珍しいという傾向があります。私は、WLUCKに参加していることも含め、普通の学生だったらやらないような活動しかしていません。なので、この地域では非常に珍しい存在だと思います。

良い意味で、浮いています
そして、普段学校でお笑いの話しかしてないので、一般的な学生とさらにズレています。

小さい頃からTVやお笑いが好きだったのですが、中1のときに、BSフジで放送していた『冗談騎士』の鈴木おさむさんの姿に感化されて、放送作家になりたいと思うようになりました。

ごくごく普通の中学生、高校生として過ごしてきましたが、2020年を振り返ってみたところ、コロナの影響でなにも出来ていないことに気が付きました。

「このままだと、なにも出来ない、無知なつまらない人間になってしまう」と焦っていたとき、たまたまWLUCKの存在を知りました。「このチャンスを逃したら絶対に後悔する!」と思い立ち、WLUCKに入りました。

放送作家を目指すきっかけとなった鈴木おさむさんはもちろん、
WLUCK運営の長崎周成さんや「第3の霜降り明星」と呼ばれる白武ときおさん、
女性放送作家として活躍されている堤映月さんなどの放送作家に憧れています。

今は未熟な私ですが、「面白いコンテンツ」を作っていけるような放送作家になるために、学生のうちから精進して参ります

その第一歩として、『百喜利』会議に参加した感想をまとめることになりました。参加して感じたことを、私なりの言葉で綴っています。

よろしくお願いします!

7月10日(土)「百喜利」とは

AUN』に続く企画を作るべく、企画会議を重ねた結果、新しい企画が誕生した。その名は『百喜利』。WLUCKメンバーのつるみさん発案の『百喜利』は、大喜利が得意な芸人さんが白い部屋に閉じこもって、ストイックに大喜利と向き合い、「大喜利の正解」を見つけるという企画である。

つるみさんによる、最初の『百喜利』企画書(一部抜粋)

初回の会議ということで、『百喜利』の土台となる構成を決めていった。ライブなのか配信なのか、(配信の場合は)有料なのか無料なのか、複数人で話し合うのか一人で苦悩するのか……、『百喜利』は一体どういうスタイルの企画なのだろうか。例えば、ライブにおいて複数人で話し合う体をとれば、お客さんも巻き込める楽しい大喜利ライブになるし、配信において一人またはコンビで行う体をとれば、回答を熟考する芸人さんの雰囲気が楽しめる。見せ方や出演者の人数が違えば、企画の伝わり方も変わってくるのである。当たり前のことだが、私は今まで、そういう「企画の伝わり方」をあまり気にしてこなかった。どういう見せ方をしたら、企画意図が明確に伝わるのか。今後はそういう視野でも企画を考えていける気がする。

今までは意識していなかった考え方を知って、少し成長できた気がした。そして、『百喜利』はどういうコンセプトで、どう見せていきたいのかをディスカッションした。その結果、YouTubeでの無料配信で、1組の芸人さんが大喜利を行うことになった。つるみさんが考えた当初の企画書には「ライブ」と銘打たれていたが、見せ方を考えた結果、ライブではなく「無料配信」として舵を切ったのだ。個人的な話、YouTubeで無料配信は、お金を持っていない学生にとって本当に嬉しいものである。

『百喜利』を説明するときに欠かせないキーワードとして、「100個の回答」と「大喜利の正解を出す」の二つを挙げることができる。この二つのどちらをゴールにするのか、この二つをどう絡ませていくのかが、『百喜利』の肝になるのである。企画の定義を決めることは、最も重要で、最も難しい。二つのキーワードの合わせ方はかなりの数が存在するのだが、中には『百喜利』の見せ方にそぐわないものもある。「100は象徴の数字で大喜利の正解を出せばよい企画」、「100個の回答を出すことが優先である企画」など、組み合わせが大量に存在するのだが、その中から「100個の回答はルールで、かつ正解を出す」ということになった。一番良い絡ませ方になったから、これからますます面白い企画になっていくだろう。

本番まで、あと65日。一体どのような企画になるんだろう。

会議後にブラッシュアップした企画書(一部抜粋)

7月18日(日)ルール設定の難しさ

2回目の会議。今日は前回の会議で決まったことからもう少し深まり、ルールや世界観(いわゆるトンマナ)について話し合った。現段階での『百喜利』のルールの一つに、「電話で友人に助けを求めたり、ネットを使ったりしてもOK」というものがある。一つのお題に同じ人が100個(以上)回答するのは難しいため、新しい視点で回答をするためにも、そういったルールがあるのだ。しかし、「このルールを最初から適用しても良いものなのだろうか」という疑問が思い浮かんだ。そこで、「〇個以上回答したら、電話・ネットOK」というルールにしたほうが良いのでは、という話題になった。

あなたが制作者側なら、このルールを追加するだろうか?

なにが正解かは分からないが、この会議で決まったのは「〇個以上回答したら、電話・ネットOKというルールは追加しない」、ということである。その理由は、面白い流れが出来にくくなるから。ルールを追加するということは、それだけ「企画に制限がかかる可能性がある」ということである。企画をより面白いものにするためには、多少、いやかなりの「自由」が必要なのだ。企画を面白くする最大のキーパーソンである演者に、なるべくカロリーをかけないで、いかに面白い企画にするのか。これが制作者である私たちに求められる力である。会議を通して、私はそう気付いた。

アイディア「正解の回答」をどうやって視聴者に見せるか、視聴者が過去の回答をどうやって振り返れるようにするか、などなど、決めることは本当にたくさんある。今回は2回目の会議なので、決定事項はまだまだ少ない。

本番まで、あと58日。少しずつ形になってきたかも。

8月3日(火)プロによるシミュレーションを眺める

2回目の会議からだいぶ日にちが空いて、この日は3回目の会議を行った。この日は、私の今の理解力では追いつけない話だった。というよりも、私が介入することのできない話ばかりだった。会議に参加して、「高校生の私と話すときとまるで違う表情で会議をする大人の姿」を見ることができた。そういう大人の姿を見ると、私から「高校生」という冠を取ったらなにも残らないのではないかと思う。内面的、技術的に、早く大人にならなければいけない。
 
この日の最初の話題は、キャスティングだ。さすがWLUCK、お笑い好きが集まっているおかげで、的確な出演者案がよどみなく出てくる。知名度はあまり高くないものの、大喜利もネタも面白い芸人さんの案がたくさん出てくる。

また、配信時の展開イメージについても話し合った。これは私では手も足も出ない事柄なので、話し合いの様子を黙って見ていた。回答を視聴者に見せるときはどうするのかという問題や、過去回答は出演者のまわりに置いて文豪感を出すのか、それとも画面上などにアーカイブとして残しておくのか、など様々である。回答を見せるとき、スケッチブックだとそのまま出せるが、書画カメラだとスタッフに一旦渡すか自分で映すのかが問題になってくるし、過去回答は周りに散らすのか壁に貼るのか、アーカイブならどういった風に表示するのかが問題になってくる。取るに足らないように見える細かい問題でも、実際はかなり企画に影響する。スケッチブックの字が見えないかもしれないし、スタッフが画面に映ることで世界観が壊れてしまうかもしれない。回答を出演者の周りに置いておくと、視聴者が回答を振り返ることができないかもしれない。……起こりうる全ての事態を予期した上で、構成やセットを考えるのが得策であることを学んだ。

本番まで、あと51日。隅々までシミュレーションをしよう。

8月10日(火)企画を支えるプロモーション

今日の会議では、SNSでのプロモーション案について話し合った。私にとって今回の会議は、テレビやYouTubeの企画会議というよりも、広告会社のアイディア会議というイメージに近い。広告会社入社1年目の若手社員が、会議を見学するような気持ちで参加していた。そして、今回は自分が今まであまり触れてこなかった分野なので、学ぶことが通常の会議に比べてかなり多かった。以下は、私が今日1日で学んだプロモーション体系である。

WLUCKメンバーが作成したプロモーション案

まず、大切なのは『百喜利』の全体パッケージが文学や文豪といったイメージなので、このトンマナに従って進めていかなければならないということ。この共通認識が確立されていないと、本命の企画を補強するプロモーション案は生まれない。見当違いのアイディアが出てくる可能性もある。今回の会議では、類似の世界観を持つ映画として『CUBE』が挙げられていたが、本物の『CUBE』と同様に黒幕を存在させるのか否か、が話題に上がった。類似のコンテンツを例にあげるとき、その作品の世界観を全て踏襲してしまいがちだが、(少なくとも、この企画に参加する前の私はそういう考えだった)今回は「自らストイックに大喜利と向き合う」という世界観に逆行してしまうので、黒幕は登場させないということになった。類似作品の美味しいところだけを切り取るのも、一つのアイディアだという事を認識できた

また、SNSを利用する場合には、一発目の投稿でどれだけお笑いファンの興味を惹きつけられるかが肝になってくる。AUNのファンを百喜利のファン、そしてWLUCKのファンにすることが目的なので、特にAUNファンに刺さるようなプロモーション案を考えなければいけない。たくさんの案が出たが、なんと一つも採用されなかった。すごく良いアイディアばかりだと思ったのに、採用されないことに驚いた。

芸人さんへの出演依頼書(一部抜粋)

本番まで、44日。百喜利は文豪チックな企画。

8月17日(火)キャスティングのリアル

今週の会議は先週に引き続き、主にプロモーション案について話し合った。初めにキャスティング担当者から、進捗報告があった。スケジュールの都合で出演NGが出たり、社内調整中という芸人さんがいたり……業界の“リアル”を見ているようだった。

プロモーション案(一部抜粋)

『百喜利』の姉妹イベントである『AUN』終演後に、予告動画を出すことになった。第3回『AUN』本番まであまり時間がないので、急ピッチで制作することになった。

個人的に、今回の会議で出たアイディアは、2種類に分類されると感じた。一つ目は、出演者や企画に関して予想しながら楽しんでもらう、「企画中心」のアイディア。「企画概要を色々な人に朗読してもらい、その中に出演者も混じっている」という案や、「文学チックなイラストで出演者を発表する」という案などが出た。かなり『百喜利』のトンマナを踏襲しているアイディアだ。もう一つは「お笑いファンの間でのバズり」を狙った、「エンタメ感強め」のアイディア。例えば、「子供にアカウントの運用を任せてみる」という案や「“百”にちなんで、1〜100歳の人に大喜利の回答をしてもらう」という案などである。つまり、より多くの人に企画を楽しんで貰うための案だ。後者の案が採用されたら、16歳の回答は私だったりして……なんて頭の隅で考えていたような、いないような気もする……。

ちなみに、人を惹きつける目的で内容を大雑把にしか伝えない広告は「ティザー広告」というらしい。今回の一発目のプロモーションはまさに「ティザー広告」に分類される。今回も、自分の語彙が増えて嬉しかった。

本番まで、37日。ブラッシュアップに付いていけない……。

8月24日(火)大人の偉大さと自分の未熟さ

第3回『AUN』が4日後に迫っている今回の会議では、『AUN』で流す映像とスケジュールについて確認した。今日は『百喜利』メンバーの凄さに改めて気づかされた。WLUCKには、映像やSNS運用、イラスト、文章など様々なスキルのプロフェッショナルがいて、今回の『百喜利』でもメンバーの能力が存分に発揮されていた。仕事は早いし、完成度も高い。私には到底できないようなスキルを持っているので、羨望の眼差しを向ける反面、どうしても悔しさを感じてしまう。高校生だけのコミュニティにいると、ある程度の自己肯定感は保てるのだが、大人の中に一人混じっていると、自分が全く貢献できていなくて悔しさだけが残ってしまう。だが、厳しい現実を突きつけられている現状は、もしかしたら成長の大チャンスなのかもしれない。高校生のうちからこういった会議に参加できる私は、本当に幸せ者だ。

今回は今まで出たプロモーション案がほとんどまとまり、スケジュールが完成した。今まで色々なプロモーション案が出てきた中で、最終的に『AUN』終了後で流す動画に採用されたのは「赤ちゃん」だった。「百喜利に関係ないじゃん、なんだそれ!」と思ったそこのあなた、良いのです。赤ちゃんは破壊力が凄まじいのです。百喜利には関係ありませんが。

赤ちゃんによる告知動画

本番まで、あと30日。赤ちゃんと動物は破壊力エグいよね。

8月31日(火)ユ、ユ、ユースケさん!?

今回は、前回と同様、プロモーションの確認を行った。この日、社内調整中だったダイアン・ユースケさんの出演が決定した。圧倒的な大喜利の力と影響力を持つ、お笑いファンなら誰もが納得するキャスティングだ。ユースケさんが出演してくださるなんて、本当に夢みたいである。私も、そして他の百喜利メンバーの皆さんも、嬉しさと驚きで言葉を失ってしまった。また、会議の初めに作家の長崎さんが「AUNはライブからテレビというゴールがあったけど、百喜利は配信から本というゴールを目指していきたい」とおっしゃっていた。なんて素敵なゴールなんだ、と感動してしまった。そして、「文学・文豪」というイメージにぴったりのゴールだと思い、心も踊った。「配信から本」という流れは、本当に夢がある。私はこの企画のメンバーだが、ただただ楽しみ!文章に感嘆符をつけるくらい楽しみ!

お題募集を始めたり、出演者のコメントをSNSに上げたりなど、まだまだやらなければいけないことはたくさんあるが、この企画のためにならなんでもできるような気がする。

出演者が発表されると、SNSでも反響があった

本番まで、あと23日。ユースケさん出演決定で、狂喜乱舞。

9月7日(火)企画会議を通して学んだこと

『百喜利』の大まかな構成案はほぼ決定したので、今日はロケ場所や衣装、テロップなど、演出面について話し合った。

決まったルールやビジュアルイメージ

東京は旅行先でしかない私にとって、地名や場所はなにも分からない。こういうときに、田舎住みであることを憎む。「パソコンとネット環境があれば自宅勤務できるし、わざわざ東京に住む必要ないよね〜」なんて巷では話題になっていたが、こういった経験をしている私からすれば、到底理解できない。実際にロケハンに行った運営メンバーも「実際にロケハンに行かないと現場の雰囲気や演者との相性が分からない」と言っていた。論理の組み立てだけで物事を遂行していくのではなく、実際に肌で感じることもそれと同じくらい大事だ、という大きな確信を得た。そして、放送作家を目指すならば、絶対に東京の大学生、東京の社会人にならなければならないと使命感が湧いた。

私の中には、企画を実現していく過程=ピラミッドを土台から先端に向かって作っていく、というイメージがある。ピラミッドの土台となるのは、構成やトンマナ、ルールなど、企画を作っていく上で必要不可欠である“事柄”。ピラミッドの先端にあるのは、衣装や小道具、テロップなど、企画を完成させる上でなによりも重要な役割を果たす“道具”である。前者は概念であり、後者は目に見える形として存在することも、重要なポイントかもしれない。どういうテーマで、なぜそれを行うのかという「目には見えないイメージ」を固定した後に、企画を実現していくための「目に見えるプロモーションや小道具」を付け足していくのだ。あくまで土台ができてから先端を作っていくことが重要なので、道具を先走ることは良くない。これは企画会議だけに通じる話でなく、料理をするときやテスト勉強をするときなど、様々な場面で共通する過程だと思う。『百喜利』の会議には、放送作家としても人間としても成長できる教訓が溢れている。

百喜利まで、あと16日。自分と企画の成長をひしひしと実感。

9月14日(火)完成に近づいてきた!

だんだんと本番に近づいてきたこの日は、シミュレーションを踏まえて諸々の確認作業を行った。こういった確認作業は漏れなく、確実にチェックしなければならないので、隅々にまで視野を広げないといけない。

衣装担当のさくらのさんが作成した「衣装配色案」

まずはエンドロールに載せる人とその役職を決めようということで、『百喜利』に携わってきた皆さんの名前と役職を確認した。その際、作家の長崎さんが、「佐々木さんの名前も構成に入れときますか!」というなんとも粋な計らいをして下さった。百喜利メンバーの中で一番なにもしていない私がエンドロールという“憧れ”の場所に載るのは、おこがましさの極みだと思ってしまったが、「佐々木さんのこれからに期待!」という長崎さんの言葉に甘えて、名前を載せることにした。この場を借りて感謝します。ありがとうございます!!

また、事前に募集していた『百喜利』本番用のお題案に目を通して、「100個以上答えられる大喜利」の定義を共有した。お題案を眺めていて、「これは面白いけど、結構シチュエーションが限定的になるかもな」「これは100個答えられるかも」という風になんとなく考えていた。メンバーで話し合い、「100個以上答えられる大喜利=シンプルかつ視点が面白い大喜利」という結果になった。この共通認識を元に本番用のお題を選ぶことになった。ちなみに、お題案を出してくれた方々がラジオで聞いたことのある名前ばかりで、会議中にかなり興奮していたのはここだけの話。 

本番まで、あと09日。百喜利、完成形へ。

9月21日(火)最後の会議

あと2日で、人生で初めて関わった企画が実現する喜びと、必死に眠い目をこじ開ける習慣がなくなってしまう悲しさが入り混じっていた(会議は社会人メンバーの仕事後に行うことが多いため、いつも夜遅かった)。今はまだ使い物にならない高校生がこのような素敵な企画のプロセスを間近で見ていること、そしてなにより、いちメンバーとしてエンドロールに載ることが、いまだに信じられない。配信の日に東京に行くことは決して叶わないが、間接的に芸人さんと仕事をすることが出来るのは、この上ない喜びだ。『百喜利』の会議が行われた日は、大抵睡眠時間を削っていたが、その分たくさんのことを学んだ。たくさんのことを感じ取って、自分のものにしてきた。そして、今日も……。

今日は準備物の最終確認と本番のお題の選定をした。事前に購入するものがたくさんあるため、なにが道具として適切なのか、決める必要がある。本当に隅の隅々まで確認するのだ。出演者に渡す簡単な企画書、エンドロール、衣装、書道セット……etc。このときも重要になってくるのが、トンマナである。小道具一つとっても世界観を崩さないように、慎重に丁寧に選んでいった。

作家志望のメンバー・小雪さんが作成した『百喜利』台本の冒頭

1日目のママタルトさんと3日目のユースケさんのお題を決めた。選ぶときのポイントとして、「①100個答えられるくらいシンプルで、②視点が面白く、③Twitterとの相性も良い」の3点を中心に選んでいく。俺スナさんや冬の鬼さんという大喜利界隈でビッグな方達のお題もあれば、私が普段愛聴しているラジオのハガキ職人さんのお題もあった。そのような多数の候補の中で、ママタルトさんのお題として選ばれたのは、「絶不調のあいだみつをが書いた詩は?」である。作家の長崎さんいわく、「絶不調というワードの面白さと、割とベタな文言がとても良い」ということである。ちなみに、このお題の作成者は『真空ジェシカのラジオ父ちゃん』でお馴染みのアナザーゴリラさんである。

百喜利まで、あと2日。16歳、真夏の大冒険。

9月23日(木)・『百喜利』第一夜 人生で1番感動した日

こんなになにかを待ちわびて仕方ないのは、いつぶりだろうか。嬉し泣きの寸前みたいな感情になるのは、いつぶりだろうか。『百喜利』第一夜、ついに始まる。私は青森から遠隔で参加する。

1日目の今日は特に仕事が無かったので、いち視聴者として楽しむことにした。YouTubeのチャットを随時開き、視聴者さんの反応を何度も何度も確認していた。私たちが作り上げてきたものに対しての生の反応が、気になって仕方が無かったからだ。これが、放送作家の気持ちなのか。自分の子供のように可愛がっている企画に対する愛情、母性がだいぶ芽生えてきた気がする。視聴者さんの反応も上々で、ひたすら嬉しい。大好きなハガキ職人さんの名前もたくさんある。みんな大喜利愛が深いんだよなあ(みつを風)。最高かよ。

いきなり、トラブルが起きた。視聴者回答募集用のスプレッドシートが機能しなくなってしまったのだ。現場にいなかったため詳しくは分からないが、スプレッドシートが荒らされたということだ。迷惑行為は面白くもなんともなく本当に迷惑でしかないから止めて頂きたいところであるが、起きてしまったことはしょうがない。

どうなってしまうんだろうと思っていたら、WLUCKの現場メンバーの皆さんが機転を利かせ、半端ではない対応力で乗り切って下さった。スプレッドシートに書いてあった答えを記録していたり、Googleフォームを驚きの速さで作ったり……。私はロケ場所に行くことができないので、心配を募らせるだけだったが、その心配も無用なくらいのアビリティを持った方々であった。確かに『百喜利』会議の過程でも、面白いアイディアだけを生み出すのではなく、起こりうる全ての事態をシミュレーションした上で、細かい構成を練っていったり、小道具を決めていったりした。世界観とトンマナを崩さないように、慎重にプロモーションの案を考えていった。

そうなのだ。結局そうなのだ。
 
企画は、「面白いアイディア」一つだけでは成立しないのは自明のこと。隅に追いやられがちな危機回避マニュアルや世界観統一のための細かい事項などを考えて、初めて「アイディア」は「企画」に昇格するのだ。チャットを見ると、視聴者の皆さんが現場スタッフに感謝を述べるコメントが多く見られた。私はこの事態には関係していないのだが、こういうコメントは放送作家冥利に尽きることである。

そしてこの配信で私が一番感動したのは、ママタルトのお二人がトラブルのフォローして下さったことだ。今までも、ママタルトさんは大好きな芸人さんの中の1組だったが、今回の『百喜利』の一件を経てからは、お二人をメシア(救世主)同然だと認識している。トラブル=準備不足によるものという悪いイメージが付きがちである。だが、良い方向に導いてくださった檜原さんのフォローや、スタッフが準備している間を雑談で繋いでいただいたお二人の優しさには、感謝してもしきれない。本当に言葉に言い表せないくらいの感動で、目頭がじーんと熱くなった。同時に、視聴者を飽きさせないように、そしてスタッフが準備できるように、雑談や雑学で間を繋いだり、フォローを入れて下さったりしたお二人、そして全ての芸人さんに対するリスペクトが止まらなかった。 

ママタルトによるトラブルフォローの様子

本当に面白い企画や芸人さんというのは、「ただ面白い」というだけではないのだ、と思った。

『百喜利』を終えたママタルト

9月24日(金)・『百喜利』第二夜 主人公の大喜利

第一夜、『百喜利』のエンドロールに自分の名前が載ったことに、溢れんばかりの感動を覚えながら過ごした1日だった。いつも通りの時間に学校から家に帰ってきた私は、昨日と同様、楽しみで心が飛び跳ねそうだった。私は『ラジ父』リスナーであるため、真空ジェシカさんを、聴覚からはもちろん視覚からも楽しめることがなによりも嬉しい。そんなこんなで、『百喜利』第二夜が始まる。

当たり前のことではあるが、大好きな芸人さんに企画をやってもらえていることは本当に奇跡なのだと思う。そして序盤で、視聴者さんの数が既に500人を超えていたことが、本当に嬉しい。お二人の姿がさながら文豪のようで、良い雰囲気を醸し出している。真摯に大喜利に向き合っているときの静寂と他の芸人さんに電話しているときの弛緩が、たまらないくらいに良い塩梅で混じり合っている。そのような部分も『百喜利』の魅力なのであろう。そして、企画がこのような最高の状態で遂行できることに感謝をしなければならない。

今まで、会議を通してたくさんのことを考え、アイディアを出し合って決めてきた。『百喜利』制作メンバーが一丸となって、面白いものを作り上げてきた。今までの準備の集大成が今日であり、真空ジェシカさんによって彩りが付いていくこと。本来の企画の面白さよりも、さらに面白さが増幅されていくことが、最高だとしか言いようがない。

第一夜もそうであるが、スプレッドシートや冷房のトラブルを大喜利の回答として笑いに昇華して下さることは、本当にありがたい。ネガティブをポジティブに変えるのは困難な技であるし、トラブルを良い塩梅で包むのも非常に難しい。素人ではそう簡単にできないことを、さすが芸人さんはそのスキルでやってのけてしまう。これこそ職人技

『百喜利』中の真空ジェシカ

結局、真空ジェシカのお二人は「主人公」なんだよなあ。

『百喜利』を終えた真空ジェシカ

9月25日(土)・『百喜利』第三夜 高まる喜びと緊張

この時点でユースケさんが出演して下さることを信じられていないのは、恐らく私だけではない。間違いなく面白くなるのは予想できるが、どのような回答が出るのか想像ができないのも、恐らく私だけではない。きっと『百喜利』のメンバーもそうだし、『百喜利』を楽しみにしている視聴者の方々もそうであろう。なんせ、ユースケさんが一人で大喜利をしているところを見たことがない。面白いことが確定している未知の世界は、これほど自分をワクワクさせるのか、と思っていた。が、最終夜である今日は、私にも仕事がある。それは過去回答のアーカイブだ。ユースケさんが出演する、という待望の気持ちはどこか行ってしまい、ずっとずっと緊張がこみあげてくる。

ママタルト・真空ジェシカ・ユースケさん。このキャスティングが叶ったのは、運営メンバーの人脈とこれまで積み重ねてきた信頼のおかげだ。仕事ができる人は「コミュニケーション能力」と「人脈」に優れていると思う。私は、WLUCKの運営メンバーは特にこれらに優れていると感じている。みんな業界の第一線で活躍しているし、発想力はもちろん、企画を何倍にも面白いものにするために手を抜かない人達ばかりだ。WLUCKで放送作家になるための能力を付けたいと思っている私に、「行動して良かった」と確信を与えてくれる。

ユースケさんは優しい。そのことが画面を通して伝わってくる。大喜利の回答をした後に解説(?)を入れて下さる。ピン芸人さんが、フリップ芸でフリップをめくるときに一言喋ってくれる時のように。疲れているはずなのに、視聴者を楽しませることに比重を置いてくれている。優しい人間の行動である。

ユースケさんはかっこいい人でもある。夜も更けているのに、大喜利のパワーが衰えない。回答を考えている姿も、資料を読む姿も、タバコを吸っている姿も、ひたすらにかっこいい。全てがかっこいい。

『百喜利』終了後

やはり、最終夜がユースケさんで“正解”だった。

おわりに

誰も知らない、放送作家の卵である高校生の日記を読んでくださり、ありがとうございました。

私にとって当たり前ではない環境で、“大人”の皆さんと一つの企画を作りあげていき、その過程を生で見ること。17年間しか生きていない未熟な私にとって、このことは非常にチャレンジングでした。ですが、たくさんのことを学ぶことができましたし、放送作家への道のりは決して容易ではないことも分かりました。そして何より、一所懸命に熱を持って作り上げた企画が演者さんによって完成形になり、視聴者さんが企画を楽しんでくれていたことが何よりの喜びでした。この経験は私にとって一生の財産ですし、放送作家になることをより強く決意させてくれました。『百喜利』に関わっていただいた全ての方々に感謝いたします。

『WLUCK PARK』で記事を書かせていただいたからには、今後さらなる活躍を皆さんに証明していかなければなりません。私の人生かけての目標は「とにかく面白いコンテンツを作り上げていくこと」です。かなり大きい目標を達成するために、以下の3つのことを確実に達成します。見ておいてください。

①メディア全般の機能や歴史、それらの課題などを学ぶために大学に入ります。時代の流れやメディアの機能など、多角的に企画を考えることができるようになるためです。

②WLUCKがある限り、WLUCKメンバーとして面白いことを作っていき続けます。16年間毎日私を支えてくれているお笑いに恩返しをしていきます。

③「女性放送作家」としての地位を築いていきます。流行の最先端を追い、社会の動向を観察しながらも、自分の中の変わらないもの(特技や知識など)でも貢献していきます。 

本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。

文:佐々木 愛花、編集:堀越愛

WLUCK CREATORS