ハゲを磨き、ハゲを貫いた2023年。M-1王者を目指すシシガシラが語る“今”。【M-1準決勝直前・シシガシラ インタビュー】

史上最多エントリー数8,540組となった『M-1グランプリ2023』。11月23日13時、準決勝に進む30組が発表された。真空ジェシカやオズワルドなど決勝常連組に肩を並べたのが、準決勝初進出のシシガシラ。

ワラパーでは、これまで2度シシガシラに「M-1」にまつわるインタビューを実施している。彼らが常に語っていたのは、自分たちの武器である「ハゲネタ」に対するこだわり。ハゲ以外のネタに挑戦した年もあったが、今年は特に「ハゲを磨く年」にすると語っていた。

2018年に結成以降、シシガシラは5年連続準々決勝で敗退している。準決勝の壁は高く、毎年悔し涙を飲んできた。ついにこの壁を乗り越えたシシガシラが次に目指すのは、漫才の頂点・M-1王者。準決勝を直前に控えたシシガシラは、今なにを思うのか。話を聞いた。

強さの理由は、過去に「負けてきた」から。「すべてはM-1のために」シシガシラインタビュー【再結成で挑むM-1優勝の道】(2022年10月31日公開)
結成6年、ハゲに向き合い成熟したシシガシラ「セカンドもM-1もハゲが獲る2023年に」【シシガシラ単独ライブ「一張羅」直前インタビュー】(2023年7月12日公開)

自己防衛しながら発表の瞬間を待っていた

———準決勝進出の報せは「沼津ラクーンよしもと劇場」の舞台上で、ななまがりさんから聞いたそうですね。

脇田: 正直、進出と敗退は50%・50%だと思ってたんですよ。行けたらラッキーだし、行けなくても納得できるというか。すごく怖くて自分では合否を確認できなかったと思うので、あの教えてもらい方がベストだったかも(笑)。

浜中英昌(以下、浜中): 確かに(笑)。

脇田: 発表の時間になったら、M-1のサイトをシュッと更新するじゃないですか。すると進出者の画像がバーンと出るんですけど、シシガシラは衣装が紫なので一瞬で分かるんですよ。例年の怖さを考えると、あの知り方は最高でしたね。

浜中: そうですね。僕も正直、行けるかどうかは50%・50%だと思ってました。12時半くらいになると「あと30分で結果が分かるんだ」と思うんですけど、脇田さんとは目も合わさず(笑)。「どうせ準々決勝で負けてまた次の1年がはじまるんだ、もう考えたくない」みたいことばっかり考えてました。

準決勝進出の瞬間。同じく準決勝に進んだななまがりと抱き合って喜びを分かち合った(脇田Xに投稿された動画より)

———もしダメでも「やっぱりね」と言える心の準備をしておく……みたいな感じでしょうか?

脇田: それはあると思います。「絶対行けた」と思ってダメだったら、耐えられないから(笑)。だから自己防衛をしつつ、一方では「もういいって」と思う自分もいるんですよ。勝手に落ちたときの妄想をしている自分に腹が立ってきて、「なんなのマジで!」という。同時に「この1年なにをしてきたんだ」みたいな腹立ちも生まれて、精神的にヤバかったですね(笑)。

浜中: ここ数年で、負けることに身体が慣れ過ぎてたのかも(笑)。

脇田: 落ちたときのシミュレーションをして、「あれもできたし、これもできたはず」と考えてしまって。そういうのがすごく嫌でした。

浜中: 本当は、ちゃんとウケてて「70%は大丈夫だ」って言えた可能性もあるんですよ。でも、勝手に評価を下げちゃってるんです。ダメだったときのダメージを軽減させるために。

———発表の瞬間(13時)は、漫才中だったんですか?

浜中: そうですね。

脇田: 舞台上から見て左手前くらいに、時計があるんですよ。だから12時57分くらいからもう耐えられなくて、お客さんには「13時に発表があって、気が気じゃないんで飛ばす可能性があります」と言い訳をしてました(笑)。でも、13時過ぎると「もういいや」って気持ちになって。いつも以上に喜怒哀楽激しく、ノってました(笑)。

浜中: だいぶ良いパフォーマンスができましたね。ただ、漫才中に客席の一番後ろに沼津の支配人がいたんですよ。支配人が両手で丸をつくったのが見えて、「まさか」「作業中にそうなっただけか?」と気を取られてネタを飛ばしました(笑)。

脇田: 僕は「浜中なにやってんだよ!」と思いつつ、支配人が丸を出してるので「面白いね~!笑ってるよ~!」っていうメッセージだと受け取ってました。「盛り上げてくれてありがと~」みたいな(笑)。

浜中: んなわけない(笑)。

『シシガシラのピピパピパ放送局』でも準決勝進出の瞬間が語られている

脇田: で、漫才を終えて「ありがとうございました」と捌けようとしたら、ななまがりさんが走ってきて。「なんだ!?」と思ったら、「シシガシラ準決勝行ってる!」と。僕らは一瞬意味が分からなくて。理解した瞬間はたまらなかったですね。
しかも「ななまがりさんが伝えてくれる」っていうシチュエーションもドラマチックだったんですよ。『漫才者集団』っていう、僕ら・くらげ・ななまがりさん・ダイヤモンドの4組でやってるライブがあって、今年の『キングオブコント』準決勝進出者発表の瞬間はこのライブ中だったんです。で、ななまがりさんがライブ中に「落ちてても受かっててもこのメンバーで分かち合いたいから、結果見てきて良いか」と。「落ちてたら面白い格好で、受かってたらスーツのままで戻ってくる」と楽屋に戻って、5分くらい待ってたらスーツで戻ってきたんです。そこでみんなで抱き合って喜ぶ、ということがあったので、僕らに準決勝進出を伝えてくれたのがななまがりさんであることに運命的なものを感じました。感慨深かったですね。

『漫才者集団』。ななまがりのキングオブコント準決勝進出が決まった日

———それはかなりドラマチックですね!しかも、M-1決勝の前説をやっているバイク川崎バイク(BKB)さんも現場にいたんですよね。

浜中: そうなんですよ!

脇田: BKBさんが「決勝で待ってるで」と言ってくれたときはグッときましたね。「お前らは絶対決勝行ける」ってずっと言ってくれてた人でもあるし、BKBさんとななまがりさんがあの場にいたのは僕らにとってすごく意味のあることでした。

BKBからも祝福が贈られた脇田Xに投稿された動画より)

———結果が分かった瞬間は、どんな感情でしたか?

浜中: 泣きそうでした。

脇田: 危なかったよね。

浜中: これまで何年も準々決勝で落ちていた分、「嬉しい」っていう気持ちがすごく大きくて。

脇田: 楽屋に戻っても、感情がコントロールできませんでした。しばらくちゃんと息もできなくて、やばかったです(笑)。「これ以上進めない未来もあるのかもしれない」と思っていたので、準決勝に行けることが信じられなかったんですよ。

———シシガシラさんは結成初年に準々決勝まで進み、幸先のいいスタートだった分なおさらですよね。

脇田: そうそう。「こういうのって、徐々にステップアップしていくんじゃないの!?」ってずっと思っていたので……長かったですね。

ハゲを極め、ダイタクと急接近した2023年

———準決勝進出が決まり、コンビで次に向けた話し合いはしましたか?

浜中: 今、ずっとしてます。どのネタにするかとか、毎日話してますね

脇田: 囲碁将棋の根建さんに、「もういい」って思うくらい相談したほうが良いよって言われたんです。お互い納得し合って、モヤモヤを残さずに挑まないとダメだからって。そのためにはほかの人の意見も聞いて、舞台で試して、「一番ウケたやつを持っていけ」って言ってくれたんです。今は、その作業をしている途中ですね。

———今年初めて準々決勝を突破できたということで、なにか昨年までと変えたことはありますか?

浜中: なにも変えてないんですよ。変えるのではなく「面白い」と思えることをやり続けて、ハゲネタの質を落とさないようにしていました。

———では、今年は今まで以上にハゲネタに向き合う年だったんですね。

脇田: そうですね。ウケ量は関係なく、ハゲで良いネタをつくり”落とされる要素”をどんどん減らしていった感じです。あと、今年に入ってからよくダイタクと喋るようになりました。ダイタクは気を遣わずに「シシガシラさんはここが弱い」「これができるようになったら最強」「ここが笑えないから、こうしたほうが良いんじゃないか」みたいに具体的に言ってくれるんで、助かってますね。飲みに行く機会も増えて、今年になってからダイタクと急接近してます(笑)。

浜中: ハゲと双子で急接近(笑)。でも、僕らは「ハゲ」「双子」と軸があるネタをやっている共通点があるので、考え方が似てるのかもしれないですね。

脇田: ダイタクは抜群に漫才上手いですしね。あと……ダイタクの即興漫才ライブに出たとき、僕らがにっちもさっちもいかなかったのをフォローしてくれている可能性もあります(笑)。「シシガシラの悲劇」を生み出してしまったので……。

※2022年1月に、ダイタク主催ライブ『ダイタクの即漫倶楽部』にシシガシラが出演。即興漫才が上手くいかず、終演後に浜中がひとりで「俺、向いてねぇわ」と呟いた。のちに「シシガシラの悲劇」として語り継がれることになった出来事である。

『ダイタクの即漫倶楽部』終演後

浜中: アフターフォローしてくれてるのかも。飲みのお金払ってるのは俺だけど(笑)。まぁ、ダイタクにちょこちょこ借りてますけど……

準決勝に向けて

———2023年は今のところ、シシガシラにとってどういう年ですか?

脇田: 今考えると、「勝負をかけにいった年」かもしれないですね。『THE SECOND』でギャロップさん、『キングオブコント』でサルゴリラさんが優勝して。身近なハゲの先輩が優勝しているのを見て、勝負をかけた年です。

浜中: そうですね。僕らはあと10回M-1に出れますけど、仮に準々決勝で落ち続けたとして「あと10年頑張ろう」とはたぶん思えない。早めに結果を出さないと続けていけないので、勝負は意識してましたね。

———M-1決勝、そして優勝を目指すシシガシラさんにとって、本当の勝負はこれからですね。今はどんな想いで準決勝までの日々を過ごしていますか?

脇田: 昨年『漫才至上主義』からダイヤモンドが決勝に行ったとき、「決勝はやりすぎじゃない?」って思ったんですよ。でも実際自分が準決勝に行くとなると、いよいよ「決勝」を意識し始める。そうすると、やっぱりマジで「行きたい」と思うんですよね。「どのネタだったら可能性を上げられるんだろう」と考え始めると止まらなくなって。そんな日々をお互い過ごしていると思います。

漫才至上主義。シシガシラ・ダイヤモンド・黒帯・チェリー大作戦によるM-1を意識したユニット

浜中: そうですね。その一方で「結局やるだけなんだから、ぶつかりゃ良いじゃん」って思う日もあります(笑)。そういう日と悩む日を繰り返してます。ただ、これは嬉しい悩みですね。

脇田: これまで何回もこういうチャンスを逃してきたし、何回もやってくるチャンスじゃないもんね。つかみ取らないと。これまでの失敗を活かします。

———最後に、M-1優勝に向けて意気込みをお願いします!

浜中: 「ハゲの時代」なんで、優勝します!

脇田: 今年は絶対に後悔しないように準備して挑みます。天命を待つのみ!

PROFILE

シシガシラ

左:浜中 英昌
右:脇田

★公式プロフィール:https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=8846
★ラジオ:シシガシラのピピパピパ放送局

文, 編集, 撮影:堀越 愛

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