【教えて!さすらいセンパイ! ~進路相談・野尻編~】生活できるようになるまで・切り売り・人間関係

さすらいラビーが学生芸人三人のお悩みに直接答える、『学生芸人の不安を解消!教えて!さすらいセンパイ!』。個別進路相談最初のゲストは、東京大学落語研究会所属の野尻佐央。生活できるようになるまでどのくらいかかるのか、私生活の切り売り、人間関係……と、プロになったら直面しそうなお悩みを相談します。が、野尻の熱すぎる想いにより面談は少し不思議な方向に……

【教えて!さすらいセンパイ!】さすらいラビーが学生芸人のリアルなお悩みに回答!~「プロになる?」学生芸人アンケート~

東京大学 落語研究会所属・野尻佐央

売れるまでは「順番待ち」?

宇野 慎太郎(以下、宇野): まず一人目は、野尻君です! お願いします!

野尻 佐央(以下、野尻): お願いします!

中田 和伸(以下、中田): ……ほんとにお笑いやる気ある?

宇野: いやいやいや、違うって(笑)。そのテンションでやるやつじゃないから。悩みや不安があって、それに答えていくということですから。聞きたいことあれば、なんでも!

中田: ラフにね。こんな答えてくれる人いないからね。

宇野: そうよ。マジでなんでも本音で答えるから。


お悩み①
生活ができるようになるまで、どれだけかかるか不安です。


中田: 生活できるようになるまでか。やっぱ、そこが不安? だって芸人って、夢を追う仕事でね、食えなくてなんぼっていうのもあるじゃんか。

野尻: この不安に関わることなんですけど、僕は『M-1グランプリ』に対する憧れがめちゃくちゃあって。やっぱり『M-1』じゃないですか、さすらいラビーさんも。

宇野: まぁまぁ、『M-1』も毎年出させてもらってるけど……。

中田: “だけ”じゃないけどね、別にね。まぁ分かる分かる、言っても『M-1』が大事だと。

野尻: 僕、大学1年生の頃からさすらいラビーさんがすごい好きで、「GYAO!」とかも全部観て、なんなら(ワイルドカード)「俺が上げてやる!」くらいの感じで再生して……

中田: えー、嘘! 本当!?

宇野: 俺の前のバイト先の人と、同じことやってんじゃん(笑)。

中田: 学生にねぇ、あんまハマってないと思ってた、俺ら。「お笑いサークルデータブック」の“憧れの芸人”欄に、俺らのこと書いてる人ひとりもいないからね。

宇野: そこまで見てるのヤバいから(笑)。

中田: 誰も書かないじゃん、と思って……

宇野: 観てくれてたんだね、嬉しい。

野尻: 戦績も、(2020年までは)三回戦までだったりとか……。なぁんで三回戦で! さすらいラビー面白いのに! おかしいんじゃないか!? と。

中田: 耳が痛いけれども(笑)。

野尻: おかしいよ!

中田: 今回の『M-1』(2021年)で初めて、やっと準々決勝行けてね。

野尻: そうなんですよ。でも、当然なんですよ、僕の中では。当たり前じゃないですか、さすらいラビーさんが準々決勝行くの。これが当たり前だということは、さすらいラビーさんが1番分かってると思うんですよ。

中田: あ~……。

宇野: いやいやいや……。

野尻: 1番面白いんだっていうことを!

中田: いやいや……じゃあOK合格!!

宇野: いや違う違う(笑)。なにに?

中田: 芸人!!

宇野: いやいや、彼は芸人にはなるんだよ(笑)。俺ら関係なしに。

中田: 分かるよ、うん、なんで行けないんだ! って気持ちも、もちろんあったし……。

野尻: 僕の体感では、さすらいラビーさんはずっとめちゃくちゃ面白かったんですよ。

宇野: ありがとうね、それは。

野尻: 今も昔も、おんなじくらい面白いんですよ! ずっとすごく面白い。で、やっと今回準々決勝に上がったっていうことは……こんなこと言って良いのか分かんないですけど、“順番待ち”じゃないかと。

中田: なるほど。

野尻: いち素人の意見ですけど、みんな順番を待ってて、辞めずに順番を待ってれば恩恵にあずかれる。錦鯉さんとか見て、すごく思ったんですよ。

中田: 最後の最後まで待った人だからね。

宇野: 数倍待ってる、俺らの。

野尻: ずっと、同じように面白い。ってことは“順番待ち”をしてるのかな? と思って。となると、何年も順番待ちしてるうちに変なことをしちゃうんじゃないかなって、僕はずっとヒヤヒヤしてるんですよ。好きな芸人さんに対して。

中田: 芸風が変わっちゃったりとか?

宇野: そういう意味の「変なこと」ね。

中田: 変な特技を身に付けようとするとかね。

野尻: ネタが変な方向に行ってる芸人さんをたまに見ると、「違うのに!」って。

宇野: 元々の形が良かったのにっていうね。

野尻: そうなんですよ! だから、さすらいラビーさんが準々決勝行ったとき、いつも通りのさすらいラビーさんで上がってくれて、ほんっとに嬉しかったんですよ。

さすらいラビーへの愛を語る

中田: 熱が、凄いよ(笑)。ありがたいな。

宇野: ありがとう。

野尻: これで良いんだ! さすらいラビーは! 俺のさすらいラビーのままで上がってくれて! 例えばボケとツッコミを入れ替えてしまったりとか、そんなことはしないでくれ!……っていう意味での“順番待ち”なんですよ。

中田: そうか。……あんなに正統派のコントをしっかりやっていたラパルフェを、今どう思う? 君は。

宇野: 良いのよ、ラパルフェは。

中田: ……ってことにもなってくるよ。これは別に「あいつらなんなんだよ!」とかじゃなくて、結構いろんな道があるわけじゃんか、お笑いって。僕らは、“不器用だからネタだけやってる”みたいなところもあって。例えば特技とか一発芸でテレビに出れるひらめきがあるんなら、全然やっちゃう可能性はあるのよ、俺らにも。

野尻: なるほど。

中田: 芸人っていうのは、それでもなおしがみついていく世界というか……野尻的にはどうなの?順番待ちをすればきっと大丈夫だから、やってくぞって感じ?

野尻: そうですね……。さすらいラビーさんが例えば三回戦で落ちてしまったとき「これじゃダメなんじゃないか。間違ってるんじゃないか」とは、きっと思わなかったと思うんですよ。その辺どうでした? 不当だなって思ってました?

中田: いや、不当だなとまでは思わない。……三回戦で落ちたときの気持ちを喋るの? 俺らは今、ここで?

宇野: 思ってたのと違うな(笑)。

中田: 最終面接?「御社の昨年度の成績、どう思います?」みたいな?「凄い子現れた!」ってなるよ、それは。

野尻: すみません……

中田: リアルなことを答えないといけないよね。

野尻: 僕は(さすらいラビーが三回戦で落ちるのは)不当だと思ってました。

宇野: (笑)。別に謙虚になってるとかじゃなく、三回戦のネタをあらためて見ると、「落ちてしょうがないな」とは思ってる。

中田: そうだね。意外かもだけど、シビアには捉えてる。もちろん、「なんであいつら受かってんのに俺らが落ちるんだ!」みたいな汚い僻みはあるけど、ネタを振り返ったときに、やっぱり通用しないものはあるよな、と。自分たちなりの分析でしかないけど、「あれとこれが足りないか」……とか、けっこう結果をありのままに受け入れてる感じはあって。……まぁでも、“順番待ち”じゃないけど、「いずれなんとかなる課題だな」みたいな感じもある。

宇野: まぁね。「土台からなにから違うよ!」みたいなところまでは行ってないから。ある程度このネタの方向性で考えて、その上で「前良くなかったことをどう直していこうか」っていう、それの繰り返しかな。

野尻: ファンの視点レベルですけど、芸人さんって皆さん“山”を持ってて、その頂上を目指すわけじゃないですか。全員が同じ山を登るんじゃなくて。で、僕から見たら、さすらいラビーさんは2~3年前の時点で「さすらいラビーの山」の頂上にいると思ってたんですよ。それで(M-1)落とされるんだっていうのは、山が間違ってるんじゃないかなとか、山がそもそも低いんじゃないかなとか、僕は思っちゃったんですよ。

宇野: うんうんうん。

野尻: 低い山を好きになっちゃったのかな? とか。

宇野: ……なるほどね(笑)。

中田: ごめんな!?

野尻: でも、そんなわけないじゃないですか!!!

中田: なんだよ、エベレストのつもりだったのに高尾山じゃん、勘弁してよ! みたいな? 中央線で行けるよって。

宇野: そう思わせてしまって申し訳ない(笑)。

中田: ひとえに力不足だよ、我々の……。

宇野: どういうコーナー!?「俺らの『M-1』を振り返ろう!」じゃないから(笑)。

野尻: 僕はプロになって、もちろん『M-1グランプリ』が1番好きなので挑戦したいと思ってるんですけど、いずれ「俺が合ってるのか間違ってるのか、それとも順番待ちをしたほうが良いのか」みたいな……「これはなにを待ってる状態なんだろう? なにで落とされてるのか分かんない」っていう状態になると思うんですよね。

宇野: まぁ『M-1』に関していえば、落ちた理由を教えてくれないから、ひたすら模索するしかない。それは落ちた人全員が。決勝行くまではそれの繰り返しだから、それに限るけどね……と僕は思うけど。

中田: 意外になんとかなるというか……もちろん必死にやってなんぼだけど、大丈夫と思って。君が応援してる僕らは、きっと大丈夫だから。まだまだ勝ち上がっていくと思う。

宇野: これからも応援してくれ。

野尻: 僕がこれだけ落ち込んでるってことは、さすらいラビーさん大丈夫かな!? って……。

宇野: まぁまぁ、そうね。

中田: 今晩イケる?

宇野: 確かに。イケちゃうかもしれん(笑)。

中田: こんなに好きって言ってくれて(笑)。

「笑いになれば良い」と思える人が強い世界


お悩み②
プロになったら、どれだけ自分のことを切り売りしないといけないんでしょうか?
言いたくないことも、言わなくてはいけないのでしょうか。


中田: なにか思うところありそうだね。どういうこと?

野尻: いわゆる私生活とか、もっと言えばセクシャルなことも言わないといけないじゃないですか。

中田: あ、なるほどね。

野尻: でもそんなこと言いたくないんですよ。なんていうか、キモイんで。僕キモイところあるんで……

中田: それは女の子関係で?

野尻: そうですね。

中田: えー、それ詳しく教えてよ。

宇野: そういうのだよ、それが嫌なんだよ(笑)。でもたまにいるからね。そういうこと言うスタッフとか。

清水: この間『YOAKEMAE』に出たとき、東ブクロさんに「童貞」って言わされました。

中田: そういうことね。言いたくないんだけど言わされちゃうみたいな。

宇野: あんまり言いたくはなかった?

清水: 全然言いたくなかったです、マジで(笑)。

中田: そういうのか。ネタはネタで切り離したいっていう感じか。

野尻: 僕はバキバキ童貞さんのチャンネル(公式YouTube『バキバキ童貞【バキ童】』)がすごい好きなんですよ。あれは彼の手札を見せられてるから全然良いんですけど、僕は手札にそういうのを入れてないのに勝手にまさぐられるのがちょっと……嫌だ。

宇野: マジなこと言うと、NGは全員にあって。事務所によるとは思うけど、最初にNGを書かされるんだよ。

中田: うち(太田プロ)はそうだったね。

宇野: ほんとに触れてほしくないこととかね。「信仰してるものはありますか?」とか「前科ありますか?」とか。全部正直にお伝えして、その上で、じゃあここは触れて良いですね、触れちゃダメですね、っていうのはきちんと事務所と話し合いをするから。芸人でも「下ネタNGです」って言ってる人もいるし。だからそこは全然気にしなくて良いと思う。

中田: 逆に、なにが爆発力あるか、面白いかって分かんないから。出したくないものは出さなくて良いんだけど、めちゃめちゃウケると意外と気持ち良かったりもするからね。で、さっき「キモイんで」って言ってたけど、俺は“キモイ部分”がめっちゃ好きだし。それがその人のエネルギーだと思ってるから。まぁ、やってくうちにその辺の気持ちも変わってくるかもしれない。ってか俺らはネタをコツコツ真面目にやってたけど、「最終的に人間的なところで勝負できなきゃ話にならんな」っていう気付きがここ2~3年であった。“切り売り”って言うとアレだけど、向き合ってみるのも良い機会かもしれない。笑いのために。

宇野: まぁね。例えばネタ番組でも、平場でなに話すかっていうのは絶対打合せがあって。俺らの体験談で言うと、とある番組に出させてもらったとき、マジで無かったの。手札が。

中田: そう。「なにも無いね」、みたいな。

宇野: 打ち合わせがもう、しんどくてしんどくて。なに提案しても「いや~……」みたいな。その中で、俺が当時の彼女(現在の奥さん)を見せたら、彼女の顔が“面白い”ってディレクターが判断して……。

中田: “ブス”ね。

宇野: ううん、“可愛い”ね。

野尻: かわいそうじゃないですか。

宇野: でも俺は、その辺バグっちゃってるから。それで喜んでもらえるなら、笑ってもらえるなら、それで良いじゃんっていうメンタルだったから。逆に言うと、俺らに持ち札がそれしか無かった。

中田: 一人を傷つけてる話だからアレなんだけど、「彼女の顔ブスなんですよ」でウケて興味持ってくれて、良かった。でも結局、振り返ると「良い笑いの取り方ではそりゃないわな」って思って。今は、やたらめったらそういうこと言うこともない。そういうのも結局、繰り返しと言うか。出してみてどうとか、やってみてどう。で、心がひりつくとか嫌だなって思うことは、好きなことを職業にしてる以上言う必要は絶対に無いから。その上で、出したり出さなかったりを試してみたら良いことだとは思う。

宇野: 嫌なことは出さなくても良いように、他に「僕こんなことできるんです」の手札を用意しておいたほうが、プライベートは切り売りしなくて済むよね。

中田: 圧倒的なネタの魅力とか、エピソードとか。

宇野: そうね。特技でもなんでも良いけど。二人(清水・栗山)はどうなの? 清水はさっき「童貞」を言わされて……って言ってたけど。

清水: 普通にミスって、自分で切り売りして、ちょっとへこんでます(笑)。

中田: いや全然良いじゃん! 童貞って面白いじゃん。良いじゃん。

清水: 俺は面白くないと思ってるんですよ(笑)。なのに自分で出して……確かに手札が無くて、こういうふうになっちゃってるってのはありますね。

中田: そうかぁ。例えば「童貞」って言ったときにブクロさんがどういじってくれたかとか、それでいろんな見方ができたりするよ。自分のこういう面にこういう面白さがあるんだ、みたいな。それは出してみて得られる気付きだよね。

清水: 確かに。今広がりました。

中田: そうそうそう、そうだよ(笑)。

宇野: 簡単に広がるな(笑)。どう? 栗山は。

栗山: 僕は意外と、それで笑っていただけるなら良いかなって。

宇野: 割と、なんでもさらけ出しても良いかな、くらいの?

栗山: そうですね。でも、嫌なことがあるかもしれないですよね、この先。

宇野: やっていくうちにね。

栗山: 嫌なものは嫌と、言えるようになりたいです。

宇野: 大事よ(笑)。

中田: でも「笑いになれば良い」ってメンタルを持ってる人が強いっていうのが事実としてあると思うから。まぁ、それを出さない上でどう勝つかだよね、やっぱね。でも面白いからね。

宇野: まぁ、ネタが面白かったらそっちに食いついてもらえるし。

中田: そういう“種”は絶対にあるはずだから。嫌がらず出せる面白い情報もあるはずだから。それは積極的に出すべきだよね。

大人との戦略的な付き合い方


お悩み③
芸人以外の大人をナメてしまう癖があります。
人間関係でヘマをしないか心配です。


野尻: 僕は大人をナメちゃうところがあって。

中田: 大人をナメちゃう!?

宇野: 良いねぇ~。

野尻: 僕は自分のネタが面白いと思ってるんですよ。で、もちろんさすらいラビーさんも尊敬してるんです。でもお笑いの演者じゃない大人には、“ナメ”から入っちゃうんですよ。

無尽蔵「発明」

中田: ちなみに今さ、演者じゃない大人(『YOAKEMAE』スタッフ)に囲まれてる気分はどう? そこら辺はどうなのかな?

野尻: ありがたいとは思うんですよ。

中田: 「ありがたいとは思うんですよ」がもう、一番ヤバいよ(笑)。

宇野: 最悪な入りだよ(笑)。

野尻: 優しいとは思うんですけど、「ネタできんのか?」みたいな気持ちで生きてるんですよ。でもこれは、僕が一生懸命だからなんですよ。

中田: なんだよそれ、言い訳じゃん(笑)。

野尻: 「ネタできんのか?」みたいな気持ちになっちゃうのは、僕が狭い世界で一生懸命生きてる若者だからしょうがないんですよ。でも、そういう部分で反感を買ってしまうんじゃないか、みたいな。

宇野: あ~、なるほどね~。

中田: これもムズイところだけど……まぁでも、結局人と人とのつながりなので。皆さんに感謝あってのことだとは思うね、ベースとして。

宇野: そりゃそうだね。

中田: 俺は大人にビビっちゃうから。

宇野: そう、中田はそもそもそんなにナメたりとか……

中田: 逆に俺は、大人が全員偉く見えるから。なんでもない人にもめちゃめちゃヘコヘコしちゃうみたいなところがある。

宇野: 俺はどっちかと言うと(野尻に)近くて、例えばダメ出しとかをさ、いろんな人がしてくれて。それが元芸人の方だとしたら「じゃあ、なんであなた売れなかったんですか?」っていう気持ちになる。

中田: 二人ともヤバいよ。

宇野: 「あなたはそれをやれば売れたんじゃないんですか? できてないですよね? できてないあなたの意見を、私は聞かなきゃいけないんですか?」っていう思考で、プロになったわけよ。だからもう、全然聞く気持ちがなかったというか。でも最初はそう思ってたんだけど、後から「あの人が言ってたことってこういうことか」って。すごいベタだけど、後で気付くことがどんどんどんどん増えていって。

中田: そうだね。

宇野: 結局その人自身は成功しなかったかもしんないけど、それはその人の得意不得意。ネタを見る目はめちゃめちゃあるかもしれないし、トークはめちゃめちゃできるかもしんないし……とかがあったから、今は割と聞き入れられるようになった。みんな、なにかしら尊敬できるところはあるなっていうふうに思えるようになったけど……まぁ、それは年月が経ったから。ただ、尖ったまま売れる人もいる。講師とか社員のこと「大っ嫌い」って言いながら売れちゃった人もいるから、一概に全員にヘコヘコしろとか、全員の言うこと聞くべきとは、正直思わない。ただ結果的に、年月経っていろいろ気付くこともあると思うから……っていうのは経験としてあるかな。

野尻: 僕は、演者じゃない先輩を「尊敬しようがないじゃないか」って思ってたんですよ。僕はネタがすごい好きだから。

宇野: 演者じゃない先輩って、例えば作家さんとか?

野尻: そう、社員さんとか。尊敬のしようが無い……“人間性”はもちろん尊敬できるかもしれないですけど。優しい人だなとか。でも、どうすれば尊敬できるのか……。

中田: 別に尊敬する必要はないじゃない。

野尻: でも尊敬してるから、意見を聞こうと思うわけじゃないですか?

中田: やっぱさぁ、(野尻は)東大で、すごい賢いし頭も切れるわけじゃんか。だから「利用する」くらいの気持ちで、戦略的に低く行くっていうのはあって良いと思うんだよね。その自意識がある時点で、尖りながら売れ切るのは無理だよ、もう。下からヘコヘコ行けっていう意味じゃなくて、「気持ちの良い付き合い」をしてったほうが得するからね、自分が。その人が仕事をくれるかもしれないし。

宇野: マナー程度の挨拶だけしてれば良いと思う。正直、「なんだよこの人」って思う人はもちろんいる。「なんでこの人にこんなこと言われなきゃいけないんだ」も全然あるから。でもそれは無視するし、こっちだって。

中田: 俺は聞くけどね。

宇野: 中田は聞いて、俺だけカッ(睨む)ってやるっていうのはあるから。

中田: バランスだね、そこは。

宇野: 全部を聞く必要は本当に無いと思ってる。だから、さっき言ったみたいに“利用する”くらいで、自分に都合の良いところだけ捉えて、関係を築けば良いと思うけどね。

中田: そうだね。まぁ、この時点で『YOAKEMAE』のスタッフとは良い関係を築けないと思うけどね。

6名のYOAKEMAEスタッフが見守っている

宇野: 全員に対してね(笑)。

中田: まぁ、これはしょうがない。でも野尻は大丈夫だと思うけどな。喋ってみて冷静だし、見えてるし。

宇野: 誰かにいきなり暴言を吐いたりとかするわけじゃないでしょ?

野尻: 絶対しません。そんなことは。

中田: 意外に常識無い人いっぱいいるからね、芸人って。だから「大丈夫かな?」と思ってるくらいで全然大丈夫だと思うよ。

番外編

宇野: プロになったら、ラジオをやりたいの?

野尻: ラジオやりたいです。

宇野: 好きなラジオがあったりとかするの?

野尻: 僕、昔やってたバカリズムさんのラジオ(バカリズムのオールナイトニッポンGOLD)で高校2年生のときにネタメール送ったんです。それが初めて読まれて、「芸人になりたい」って思って。

宇野: あ~、嬉しいよね。

野尻: いつかはやってみたいっていう。

宇野: 今さ、ラジオやろうと思ったらできるわけじゃん、音声配信とか。そういうのはやってないの?

野尻: やってないですね。

中田: そういうのは違う?

野尻: 違うとは思わないですけど、まだ「溜めてるぞ」くらいで……

宇野: なるほどね、話があれば全然やるぞって。

中田: ちょっとムズイのがさ、ラジオ誰でもできるじゃん。それちょっと複雑じゃない?

野尻: そうなんですよ。

中田: “やっと届く場所”であってほしくない? ラジオとかテレビとかって。

野尻: (自主ラジオを)やるなら非公開でやりたいな、みたいな……。

中田: 非公開?

野尻: 非公開で溜めといて、そしたら手が届いたときにその話をもう1回できるかな、みたいな。

中田: なるほどね。トレーニングみたいな。

野尻: 筋トレ感覚でやってる人も多いと思うんですよ。自主ラジオって。

宇野: まぁそうね。

中田: ●●●とかはそうだよね。

宇野: 名前出すなよ。

野尻: 聴いてますよ、僕!!

中田: ありがとう(笑)。

宇野: あれは仕事だよ。

中田: あれは筋トレだよ。あれは筋トレして、お金が入るシステム。

宇野: じゃあ仕事だよ。

野尻: 聴いてますよ!

中田: マジでありがとう(笑)。

宇野: あとドッキリの仕事はやりたくないのか。「嘘でも悲しい気持ちになったり、動転したりしたくないので」(野尻のアンケートより)、と。

野尻: 「ドッキリ大成功!」「ちょっと~」って、チャラになってる感じがあって……悲しんだ気持ちは本当じゃないですか。例えば、強盗が入ってきた、みたいなドッキリがあって「え、死ぬかも!」って思った気持ちは本当じゃないですか。それって、そのとき1回死んでるじゃないですか。で、「嘘です」「嘘かい!」…………「嘘かい!」って!!

宇野: あはは(笑)。

野尻: 1回死んでるんですよ。本当は死んでないだけで、死んでるんですよ。これって、ずっとやってるから別に良いみたいになってるけど、「いやダメでしょ」って。人を悲しい気持ちにさせるのは。

宇野: 涙は流してるもんねぇ。

野尻: そうなんですよ。

中田: よくネタできるよね。ネタってそういうことじゃない? フィクションを見せて楽しませて、みたいな。

宇野: あー、難しいね。俺らはね、別にドッキリでもなんでも、お仕事でいただけるのであればバンバンかかりたいとは思うけど。でもドッキリNGの人もいるからね。

中田: まぁそうか、いるか。

宇野: ドッキリやるなら、事前に知らせといてくださいっていう人もいるし。

中田: それはあるよね。リアクションの仕方が面白く映るかを戦略的に考えて出る人はいるけど。でも、野尻はピュアじゃん。「ドッキリが嫌」って。

宇野: 確かに。かけちゃうかもな。

中田: そういう人こそ、リアクションが爆発的に面白かったりするし。でもそれを面白く使うかは、野尻しだい。

野尻: 越えていければ、確かに……。

宇野: それでめちゃめちゃ売れちゃう可能性だってあるかもしれないし。リアクションだけで。

中田: 生理的にアウトなゾーンを越えてみるっていうのは、やってみても良いかもしれない。嫌なら止めたら良いしね。

宇野: 確かに。1回かかるだけかかるのもありかもね。

中田: 「誰かかけて」って言っといたら良いんじゃない?「ブチ切れたらごめんね」って。

宇野: なるほどね。あ、特技があるの? ……「食べるのが早いです」(野尻のアンケートより)。

特技は「食べるのが早い」?

中田: ……すごいじゃん! 細身だけどねぇ。

宇野: どうするの? オーディションで「食べるのが早い」って言われても困るんですけど(笑)。

野尻: 食べるのはめちゃくちゃ早いです。

宇野: 例えば?

野尻: 手品みたいだと言われます。普通に喋ってたのにすぐ無くなってるから、手品みたいだねって言われます。

中田: うーん……今後多分困ってくるね、特技欄については。これが悩みでもあるのかな。

野尻: 東大なんですよ、僕。でもアカデミックな特技が無い。人よりいっぱい聞かれるかなと……でも、ありゃしないんですよ、そんなの。

中田: 僕も一橋大学出身なんだけど、やっぱ山ほど聞かれる。そうだなぁ、楽してくだりを終わらせるための、手前で済む特技があっても良いかもしれない。特技を身に付けるにしても、気持ちが乗ってないことをわざわざやる必要は無くて。なにか好きなことを1年間とか続けて、それを特技にするのが良いよね。で、俺は漢検をとったのね。準1級レベルなんだけど、マメ知識をぽんっと言ったらみんな喜んでくれるから。意外にそんなんでも良かったりするし。なんかひとつ、ビジネス特技。

宇野: 「学歴ある」が前提のね。むずいよね、俺らも芯食った特技でテレビに出れたこと無いから、ごまかしごまかしやってるって感覚だね。

中田: それが意外に正解かもしれないし。だから「ごまかし方」みたいなのは持ってても良いよね。

宇野: ベタだけど「50音を言われたら何々で返せます」みたいなのを考えて覚えるとかでも、あったら便利かもしれない。

中田: 悲しいことでもあるけど、意外に“芯食える場面”って少ないよな。

野尻: 芯食える?

中田: 例えば、東大でやってる実験をめちゃめちゃ説明して……みたいなのは伝わんないじゃん、テレビの向こうには。で、俺なんて商学部だし、漢検って関係ないのよ。でも田畑藤本の藤本さん(東京大学出身)なんて、本当は理系だけど文系のクイズ番組出てたりする。でもそんなのが通用したり、大事だったりするから。なんというか、「寄せる」というか。

野尻: なるほど。分かりやすい形にして……

中田: でも悲しいことに、「やったほうが良いよ!」とまでは言えない。「あったら便利だよ」くらいは言えるけど。

宇野: そう。やっぱ俺らも、気持ちのどっかで「特技なんかよりネタ見てよ」って思っちゃうから。だから断言はできないけど、あったほうが楽できる場面はあるっていうのは経験から言えるかな。

中田: ……だ、大丈夫かな。身になってる?俺らの「業界への愚痴コーナー」みたいになってない? 心配なんだけど(笑)。

野尻: いや、ありがたいです。

宇野: どうでした? 僕らなりにいろいろ答えてみましたけど。

野尻: ほんっとありがたいです。

宇野: ほんと(笑)? 多少は解消された?

野尻: はい。大好きな芸人さんの前で、こんな……。

中田: それが衝撃の事実だからなぁ。

宇野: まさか俺らのファンだとは。

中田: まさかいたとはね。「なんか仕切ってるやつ」くらいに思われてるかなと思ってたけど。

宇野: 俺らとしても嬉しいからね。

中田: 嬉しいよ、ほんとに。

宇野: 今日以外でも、聞きたいことあったらなんでも答えますので!


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写真・文:堀越 愛

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