『夜中に送ってごめん』は、放送作家・長崎 周成さんによる連載。

アイディアを思いついたら夜中でも人に送りつけてしまう長崎さんの衝動を反映し、“仕事では言っちゃいけないこと”や“企画案”など、いろんな側面から「放送作家の日常」を綴ります。
第1夜・手ぶらで海外に行く旅番組
先日、海外旅行に行った。
大人になってから何度か渡航しているが、まだまだ緊張感がある。荷物は何度も確認しているし、余裕を持って出発しているのだが、無事飛行機に乗れるのか最後まで気が抜けない。空港から飛行機に乗るという一連の流れが、凄く常識を試されている気がして好きじゃない。なぜか手荷物検査では屁が止まらない。余裕な顔を作れても、腸は嘘をつけない。
今回はフィリピンの首都・マニラに1週間ほど滞在した。マニラは都心部では普通にコンビニやショッピングモールもあり、東京ほどではないが生活用品は基本的に手に入る。必要なものは現地調達もできるのだが、不安でキャリーケースに1週間分の衣類と、絶対食べないどん兵衛などを入れて持って行った。機内にも持ち込み荷物の大きめのリュックを持って行った。無事に飛行機に乗れて緊張感から解放されて、汗を拭きながらバタバタと座席に座った。
隣の席の人が、イカゲームでメンコを仕掛けてくる男性くらいスマートなスーツ男性だった。汗ひとつかいてないし荷物も持っていない。これは予想だが、このイカゲーム男性は普段から世界中を飛び回っており、マニラなんて近所のサウナに行くくらいなんでもないことなんだと思う。それくらい圧倒的な余裕を感じた。
マニラに着いて、空港を出てタクシー乗り場を探していると、隣の席だったイカゲーム男性がいた。僕は思わず二度見してしまったのだが、男性は手荷物どころかスーツケースも持っていない、完全に手ぶらだった。海外に手ぶらでスーツ。So coolが過ぎる。彼は国家諜報員だったのかもしれない。それくらい、海外に手ぶらでスーツで行けることがカッコ良すぎて衝撃的だった。

この光景を見た直後、仕事仲間にLINEした。
「完全に手ぶらで海外に行く旅番組できないかな?
スマホとパスポートと財布だけをポケットに入れて海外へ。生活品や食事、宿泊先は全て現地調達。行き先だけでなく、所持品も行き当たりばったりな大人の旅番組がやりたい。スマホやカメラなどの企業にスポンサーについてもらって、旅系の番組スタッフを誘って実現したい」
夜中だったけど、言いたい気持ちが抑えられなくて送ってしまった。
僕は、思いついたことを抑えきれなくて発作的に、夜中であろうと送りつけたくなってしまう。
とても前置きが長くなったが、
この発作によって人に本気で嫌われて泣いちゃう前に、どこかに吐き出さなきゃやばい。
ってことで、コラムを書かせてもらうことにした。タイトルは、『夜中に送ってごめん』。タイトルに自戒の念を込めた。
僕は「放送作家」という仕事をしている。主にテレビやコンテンツの企画を考えるのが仕事だけど、それだけじゃない。
自己紹介がてら、ざっくり担当しているお仕事を言うと、
お笑い仕事はコンビ大喜利王を決めるライブ『AUN』や電車のなかで流れている大喜利コンテンツ『黙喜利』を考案。YouTubeをフワちゃんと一緒にやってたり、『COCHO COCHO』というこどもたちが出演するチャンネルも企画している。テレビはテレ東で『TXQ FICITION』というフェイクドキュメンタリーの番組やNHKの番組を担当。今年は『青春イノシシ』という新しい学校のリーダーズのドキュメンタリー映画も作った。たまごっちのアニメの脚本も担当している。
ジャンルでいうと一般的な放送作家よりも、散漫としていると思う。
業界の中では「テレビやってない人」と言われていたりするらしい。
ちょっと前に『FRIDAY』の「業界人の裏側!」みたいな特集で「30代の放送作家長崎周成はテレビに見切りをつけたようだ」というわけわからん憶測記事を書かれたこともあったけど、全然そんなことない。ちゃんとテレビっ子で育ってきてるし、見切りつけられる立場でもない。勝手に対立構造みたいなの作って面白くしようとしないで欲しい。そんでその記事見てニヤニヤしないで欲しい。
「テレビがヤバい」みたいなことあんまり考えてなくて、どっちかというと「これ面白そう」と思ったことがどのジャンルや場所(テレビ、YouTube、ライブなど)に落ちると一番面白くなるかしか考えてない。もっとみんなが色々やれた方が良い、の精神。
色々やりたいとほざいているわりに、僕はインプットをさほどしてない。
生活の中で耳に入った話題になっているものは、見に行くがそれ以上はしない。起きている間に仕事してたら、自分から面白いものを探しに行く時間なんてほとんどないし、可処分時間を強引なインプットに捧げて感性が死にたくない。あと何より寝たい。7時間寝たい。金木犀の香りがするめぐりズムをしてぐっすり寝たい。34歳になりこの仕事は長距離走だと気づいて、良い加減エンタメの世界の「ストイック美徳文化」に付き合ってられないと思った。寝ないで仕事してる体力ある風の人=カリスマ、みたいなのもうやめましょう。はよ寝よう。
あと「幸せをケチらない」を座右の名としている。例えば、食べたい時は好きなものを食べるし、ちょっと寝たい時は寝る。一瞬の怠惰を真っ向から肯定することで、致命傷を避けてきている。
友達と遊ぶのも幸せをケチらないことの一つ。
インプットを過剰にしない代わりに、友人とよく喋る。
大学時代に学生芸人をやっていたこともあり、僕のまわりには今も芸人が多い。放送作家など、僕と同じように業界の裏方として働いている人も多い。僕みたいな者と仲良くしてくれる、みんな良いやつ。超友だち。
みんなとは仕事でかかわることもあるけど、ほぼ遊び。今も学生時代となんら変わらない遊び方をしている。ゲームをしたり、散歩に行ったり。
今回は初回なので、このコラムで頻出するだろう友人達を紹介しようと思う。15年以上の付き合いであるひわぼーい、しょっちゃん、かじもんからなる、関西歌唱隊のメンバーだ。
僕らは全員同い年で、関西生まれ・関西育ち。高校時代は、みんなお笑いの道を志していた。
関西歌唱隊のメンバーは、下記の通り。
① ひわぼーい(ママタルト檜原)
普段はママタルトというお笑いコンビを組んで活動しているそうだが、歌唱隊ではたこ焼きを焼いたり、M-1直後にペペロンチーノを作ったりしてくれる心強い男。朝に代々木公園に行って日焼けしてヨガをする「白豚の会」のメンバーでもある。
② しょっちゃん(宰務翔太)
中学からの同級生で、学生時代からずっとお笑いをしていたが上京して一流のナンパ師になり、現在はスタンダップコメディアンをしている。しょっちゃんが歌う、ドリカムの「マスカラまつげ」は僕らを魅了するキラーチューン。
③ かじもん/ヴァジー(梶本長之)
学生時代、僕とコンビを組んでいた。今は放送作家として令和ロマンのYouTubeを担当したり、競馬で大負けしたりしている。
最近アナフィラキシーショックで死にかけて、全身の色が「赤」になってしまった。「白豚の会」メンバー。
④ 長崎周成(ぼく)
仕事は放送作家をしているが、歌唱隊では「良いお店を見つけたから行かないか?」や「これ一口よりも一気に行った方がうまいで」など率先して提案したりする。楽しいことを見つけたらすぐに歌唱隊に共有する。
僕らは週一くらいで集まって、夜中から自転車に乗ってみんなでお台場に向かい朝日を見に行ったり、映画を見に行ったりしている。年末には全員でハマった『グランメゾン東京』の映画を見に行って、感銘を受けてミシュランフレンチにも4人で挑戦した。
最近は「女性は意外と中身で見てくれる」や「お酒の飲み過ぎは良くない、お酒を飲んでいなければもっとすごかった」といった世の真理について語らっている。立派な大人になろうとしているのかもしれない。
歌唱隊と名乗っているが、最近は歌っていない。

せっかく始まったコラムが、こんな友達紹介が大部分を占めて良いのかわからないけど、なんかこれくらいで良いと思う。
コラムが公開された今日、僕は34歳になった。「放送作家のピーク」と言われている35歳まで、あと1年。仕事でやっていることは世の中に勝手に出ていくし、僕も自分のSNSで投稿する。だけど、普段の裏側はそれこそ友人たちしか知らないこと。34歳の放送作家がどういう日常を送っているのか、サンプルAとして、興味を持って頂けた方はひっそりと覗いて欲しい。
あと、『ワラパー』はお笑いのメディアなので、もしかしたらお笑いやメディアの仕事をしたい人がいるかもしれない。そんな人たちが「楽しそうな業界に見えるコラム」にもしていけたらいいなと思う。自己啓発本やビジネス書みたいなかっこいいことは言えないけど。
漫画くらいパラパラと読める、34歳放送作家の日常コラムを目指そう。
たまには、仕事中とかだと言っちゃいけないことも書いちゃおうかな。
思いついた企画も真っ先にここに書いちゃおかな。
とりあえず早速、初回から夜中に書き始めたことは反省だけどこれから徐々に日中に書けるようになっていきたいと思う。
今月の企画案
完全に手ぶらで海外に行く旅番組できないかな?
PROFILE

長崎 周成
1991年生まれの放送作家。芸人、テレビ制作会社勤務を経て現職。地上波テレビ番組の企画構成を担当しつつ、2018年に「フワちゃんTV」/「フワちゃんFLIX」をフワちゃんとともに開設。2019年に20代放送作家を中心とした企画会社「チャビー」を設立。お笑い・バラエティ企画を中心に、CMや映像コンテンツを横断して企画。
・Instagram:shuuuuuusei0630
・X:shuuuuuusei
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