【トット インタビュー(前編)】「漫才を見てほしい、知ってほしい」 M-1戦士・トットの新しい挑戦

2023年夏、トットによる3ヶ月連続の『事務所交流漫才ライブ』がスタートする。ゲストに迎えるのは、カナメストーン(7月27日)、ママタルト(8月27日)、ヤーレンズ&ストレッチーズ(9月22日)。いずれも「いつM-1決勝に行ってもおかしくない」非吉本芸人であり、トット自身も同じ高みを目指している。

2020年4月に上京後、トットは劇場を中心に活躍の幅を広げた。舞台上では枠にとらわれないスタイルで暴れまわり、かつての“正統派アイドル芸人”的イメージを一新。大宮セブンなど賞レース強者たちに揉まれ、『M-1』への想いを一層強くした。しかし、2022年は三回戦で敗退。悔しさを踏み台に『M-1』に向け新たな取り組みをはじめたトットに、話を聞いた。

★インタビュー後編:M-1に挑む原動力は、悔しさと自信。スベり続けた2年を経て、今「漫才は負けへんと思ってる」

非吉本芸人を呼ぶライブが始動

———今月末から『3ヶ月連続事務所交流漫才ライブ』を実施するんですよね。このライブが決まった背景を教えてください。

多田智佑(以下、多田): もともと、今年の1月から『M-1』に向けた3ヶ月連続新ネタライブをやってたんですよ。その次の動きとして、吉本ではない後輩芸人を呼んで漫才やトークをする1時間ライブをやろうということになったんです。

桑原雅人(以下、桑原): M-1戦士の方とご一緒することで、刺激をもらえたり勉強になったりするやろうと思って「M-1決勝に行くだろうな」と思う人たちをお呼びしました。あと、初めてのお客さんにも僕たちの漫才を見てもらいたいっていう想いもあります。劇場の寄席には出てるけど、東京に来てから他事務所の方と交流するチャンスがほとんどなかったんですよ。

7月はカナメストーン、8月はママタルト、9月はヤーレンズ&ストレッチーズがゲスト(チケットはこちら)/フライヤーデザイン:しらたき

———吉本を越えた“東京ライブシーン”の中で、漫才師・トットを見てもらう機会を増やしたいということですね。

桑原: そうですね。大阪のときはマンゲキ(よしもと漫才劇場)にいろんな芸人やお客さんが来てくれていたけど、東京にはいろんなコミュニティがあるのでまったく会わない人もいるんです。もっといろんな方に「知ってほしい」という気持ちが強くなったので、自分たちから知ってもらうための動きをしようと。

多田: 3ヶ月連続でいろんな方とご一緒しますけど、ちゃんと絡みがあるのってヤーレンズくらいなんですよ。ヤーレンズは元々大阪吉本なので関わりがあったけど、ほかの方はほとんどしゃべったこともない。新しい刺激をたくさんもらえるだろうなと思います。

———最近、多田さんが衣装を新しくして深緑色になりましたね。これも『M-1』を意識した動きなんですか?

桑原: そうです。今まではずっと緑をコンビカラーにしてたんですけど、もっと“しっかりした大人な漫才師”というイメージで見てもらいたいと思って深緑に。以前はお揃いの緑を着てたけど、若かったし“アイドル”的なイメージがあったんです。漫才をちゃんと見てほしいという想いがあるんで、もっと落ちついた感じというか、渋い雰囲気にしたいなと。

トット新衣装

———桑原さんのポケットチーフも変わりましたね。

多田: 僕の新衣装のスーツの切れ端を、胸ポケットに入れてるんですよ。

胸ポケットに注目

桑原: 前は緑のポケットチーフを入れてました。新しい衣装になって落ちついた見た目になったので、緑だとバラバラ感が出るなと思って。多田さんの切れ端を入れてみたら“コンビ感”が出たんで、入れてます。

ひとつ前の衣装は、緑色のポケットチーフを入れている

【新衣装に対するSNSの反応】
「漫才師って感じ!」「似合いすぎ」「ワイン持ってる?」「緑の衣装も大好きだったけど新衣装も似合ってる」「爽やかな見た目で引き付けて、中身バリ尖ってる作戦か」など

漫才以外はもういらない

———大阪から東京に来て、今年で4年目ですね。以前はシュッとした芸人というイメージでしたが、ここ数年はいわゆる“大宮”や“一座”の色も強くなってきました。このイメージの変化は戦略的なものだったんでしょうか?

桑原: わざと変えようとしたわけではないんですよ。でも今思い返すと、根っこにあった本音を出すようになったのかもしれません。大阪では、素を出すとかは考えず「この仕事・ライブを成功させなきゃ」って想いで活動してたんです。それも別に良かったと思うんですけど、東京に来たら一番に「どんな人たちなの?なにができるの?」が来るんですよ。それで、「僕らはこんな人間です」ということを出すようになったんですかね。一座あたりのメンバーが、僕らを剥いてくれた感じがあります。「素を活かして良いんだよ」と。「素が面白いから出して良いんだよ」と教えてくれた気がしますね。

多田: GAG、囲碁将棋さん、タモンズあたりが剥いてくれましたね。

桑原: 東京に来て、まわりが「ちゃんとしてる」とか「人気あるしね~」みたいにいじってきて。それで「いや、ちゃうねん!おもろいねん俺らは!」「ワーキャーちゃうんじゃい!」とか言い返してたら、みんなが面白がってくれて。そこから本音でぶつかり出すようになって、仲間ができてお客さんも増えてきた感じがあります。

多田: お客さんは笑ってないけど、あの辺の人たちは笑ってくれるから(笑)。僕らも「良いんや」と思えて。

———大阪にいたころは、「ワーキャーちゃうんじゃい」みたいなことは言ってなかったんですか?

桑原: まったく言ってないです。

多田: 「人気あるしね~」的ないじられ方をすることもなかったですね。

———単独ライブのグッズで、写真集を出したこともありますよね。自分たちとしても「そっちの路線でいこう」という部分があったんでしょうか?

桑原: お客さんにもそういうことを求められていたし、宣伝にもなるし、と思ってやってました。好きな漫才もできてたんで、喜んでもらえるならということでやってたんですけど……。

過去の単独ライブで販売した多田の写真集

———東京に来たら、求められるものが変わった感じでしょうか?

桑原: 求められるものが変わったのもあるし、年齢もあると思います。

多田: 年齢はでかい気がしますね。

桑原: お笑いファンや『M-1』ファンの方は「別にそんなのいらんねん、漫才が面白いかどうかやし」みたいな空気感があるし、違うのかなと思って。だから僕らも、漫才以外に時間を割くのはやめようということになったんです。いろいろやるのではなく、絞ろうと。それで断る仕事もけっこうあったんですよ。めっちゃ“お笑い”な変な企画ライブとかネタライブには出て、毎日新ネタを考えて……。それ以外のことはやらんとこ、と。
まわりの人にはけっこう「もったいない」って言われましたし、吉本的にも僕らがやってることは『M-1』に振りすぎてて「一か八かすぎひんか」っていうのがあったと思います。でもやっぱり、僕らは「ほかのものは、正直もういらんな」と。自分たちの根っこの根っこってなんやねん?って考えたら、やっぱ漫才で勝ちたい。漫才を見てほしい、知ってほしい。話し合って、ふたりでそういう方向性にしました。

「ウケる」から「おもろい」への転換

———いつごろから『M-1』中心の活動方針になったんですか?

多田: ずっとそういう想いはあったけど、明確に転換したんは東京出てきてからですね。2020年とか?

桑原: そうですね。コロナ禍で無観客ライブをやったのが、変わるきっかけかもしれません。無観客なので、お客さんの笑い声がないじゃないですか。そこでマヂラブさんとかを見て、「ウケるかよりおもろいか」だなって感じたんですよ。それまでは「漫才でウケる」ことを目指してたけど、自分たちもそっちに行かんとあかんちゃうかなって。

多田: そうですね。

———「ウケる」ではなく「おもろい」というのは、どういうことでしょうか?

多田: 僕らが「おもろい」と思えることをやる、ということですね。ふたりがおもろいと思ってることを、ちゃんと伝わるように表現しようと。

———以前は、自分たちの「おもろい」よりお客さんウケを意識していたのでしょうか?

桑原: 最初は「おもろい」でやってたんですよ。でもウケないと、作家さんとかに怒られるやないですか。というか、ウケないとダメじゃないですか(笑)。だからウケるために頑張って、ウケ出したけど、今度は「パンチが弱いな、オリジナリティがないな」と思うようになって。でも「ウケてるしな」……と、せめぎ合ってました。だから「自分たちがおもろいし、ウケる」を目指そうっていう感じですね。

多田: そうですね。

桑原: ネタのつくり方も全部変えました。それまでは漫才コントをやってたけど、しゃべくりにしよう、人間性を出した会話にしよう、と。だから、最初はめちゃくちゃスベってましたね。今までとちゃうからファンの方もびっくりしてるし、下手やったんでネタのクオリティも下がって、明らかにウケなくなってる。「前に戻したほうが良い」ってめっちゃ言われたけど、前のやり方では勝てないってわかっていたので「こっちでいく」と貫きました。
あるとき、大宮でタモンズ・ゆにばーす・ドンデコルテ・とらふぐがやってる『Mライブ(Mを怨みMを憎みMに裏切られそれでもMに振り向いてもらう為の漫才ライブ)』に呼んでもらったんですよ。『M-1』に向けたネタをしてから話し合うんですけど、「今のトットさんのほうがおもしろい」ってみんなが言ってくれて。僕らが「おもろい」って思う人らが「おもろい」と言ってくれるようになって、袖の芸人さんが笑ってくれることが増えて「やっぱり間違ってないんかな」と思えるようになったんです。で、少しずつお客さんも笑ってくれるようになった。ただ、昨年の『M-1』は三回戦で落ちてしまったんですよ。なんでだろうと思ったとき、「もっと知ってもらわなあかんのちゃうか」と。

多田: そうですね。

桑原: まったく知らん人が急に出てきても、笑うの難しいじゃないですか。だから「知ってほしい」って余計思ったんですよね。

———新たにstand.fmで『トットのコゼリアイラジオ!』がはじまりましたね。これも、知ってもらうための施策ですか?

桑原: 以前GERAさんで特番をやらせていただいたとき、反響がすごかったんですよ。これまでライブでしか出してなかった素の部分を外に出したら、いろんな人に「おもろかった」って言ってもらえて。そういうところも知ってもらおうということで、ラジオをはじめました。

多田: いろんな方に聴いてほしいな。

桑原: やっぱ、ふたりの関係性とかキャラクターは一番わかりやすいですよね。

多田: 思ってることをダイレクトに伝えて良い媒体やないですか、ラジオって。めっちゃ楽しみですし、エンタメゲンカもガチゲンカも、いろいろ出していけたらなと思ってます。それからYouTubeもリニューアル解禁したので、様々な方向からトットを知っていただけたら嬉しいです。

★インタビュー後編:M-1に挑む原動力は、悔しさと自信。スベり続けた2年を経て、今「漫才は負けへんと思ってる」

PROFILE

トット

左:多田智佑
右:桑原雅人

★公式プロフィール:https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=3379
★公式YouTubeチャンネル:トットチャンネル
★stand.fm:トットのコゼリアイラジオ!

文, 編集:堀越 愛

撮影:ヘンミモリ

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